text:yomeiuji:uji082
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| text:yomeiuji:uji082 [2014/10/05 17:42] – Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji082 [2025/05/08 16:25] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
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| 行 6: | 行 6: | ||
| **山の横川の賀能、地蔵の事** | **山の横川の賀能、地蔵の事** | ||
| - | これも今はむかし、山の横川に賀能知院といふ僧、きはめて破戒無慙のものにて、昼夜に仏の物をとりつかふ事をのみししけり。横川の執行にてありけり。 | + | ===== 校訂本文 ===== |
| - | 「政所へ行」とて、塔のもとをつねに過ありきければ、塔のもとにふるき地蔵の物の中に捨をきたるを、きとみたてまつりて、時々きぬかぶりしたるをうちぬぎ、あたまをかたぶけて、すこしすこしうやまひおがみつつ行時もありけり。 | + | [[uji081|<< |
| - | かかる程に、かの賀能、はかなく失ぬ。師の僧都、是をききて、「彼僧は破戒無慚の物にて、後世、さだめて地獄に落ん事うたがひなし」と心うがり、あはれみ給事かぎりなし。 | + | これも今は昔、山((比叡山延暦寺))の横川に、賀能知院といふ僧、きはめて破戒無慙の者にて、昼夜に仏の物を取り使ふことをのみしけり((「しけり」は底本「ししけり」。衍字とみて一字削除。))。横川の執行にてありけり。 |
| - | かかる程に、「塔のもとの地蔵こそ、この程みえ給はねば、いかなる事にか」と院内の人々いひあひたり。「人の『修理したてまつらん』とて、とり奉たるにや」などいひける程に、此僧都の夢にみ給やう、「此地蔵のみえ給はぬは、いかなる事ぞ」と尋給に、かたはらに僧有ていはく、「此地蔵菩薩、はやう賀能知院が無間地獄に落しその日、『やがて助ん』とてあひぐして入給也」といふ。夢心ちに、いとあさましくて、「いかにして、さる罪人にはぐして入給たるぞ」と問給へば、「塔のもとを常に過るに、地蔵をみやり申て、時々おがみ奉しゆへなり」とこたふ。 | + | 「政所へ行く」とて、塔のもとを常に過ぎ歩(あり)きければ、塔のもとに、古き地蔵の、物の中に捨て置きたるを、きと見奉りて、時々衣(きぬ)かぶりしたるをうち脱ぎ、頭を傾(かたぶ)けて、少し少し敬ひ拝みつつ行く時もありけり。 |
| - | 夢覚て後、みづから塔のもとへおはしてみ給に、地蔵、まことにみえ給はず。「さは、此僧にまことにぐしておはしたるにや」とおぼす程に、其後、又僧都の夢に見給やう、塔のもとにおはしてみ給へば、此地蔵、立給たり。「これは失させ給し地蔵、いかにしていでき給たりぞ」とのたまへば、又人のいふやう「賀能ぐして地獄へ入て、たすけて帰給へるなり。されば、御あしのやけ給へる也」といふ。御足をみ給へば、誠に御足、くろう焼給ひたり。夢心ちに、まことにあさましき事限なし。 | + | かかるほどに、かの賀能、はかなく失せぬ。師の僧都、これを聞きて、「かの僧は、破戒無慚の者にて、後世、さだめて地獄に落ちんこと疑ひなし」と心憂がり、あはれみ給ふことかぎりなし。 |
| - | さて、夢さめて、泪とまらずして、いそぎおはして、塔のもとをみ給へば、うつつにも地蔵立給へり。御足をみれば、誠にやけ給へり。これをみ給に、あはれにかなしき事、かぎりなし。さて、なくなく此地蔵をいだき出したてまつり給てけり。 | + | かかるほどに、「塔のもとの地蔵こそ、このほど見え給はねば、いかなることにか」と、院内の人々、言ひ合ひたり。「人の、『修理し奉らん』とて、取り奉りたるにや」など言ひけるほどに、この僧都の夢に見給ふやう、「この地蔵の見え給はぬは、いかなることぞ」と尋ね給ふに、傍(かたは)らに僧ありていはく、「この地蔵菩薩、はやう賀能知院が無間地獄に落ちしその日、『やがて助けん』とて、あひ具して入り給ふなり」と言ふ。夢心地にいとあさましくて、「いかにして、さる罪人には具して入り給ひたるぞ」と問ひ給へば、「塔のもとを常に過ぐるに、地蔵を見やり申して、時々拝み奉りしゆゑなり」と答ふ。 |
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| + | 夢覚めて後、みづから塔のもとへおはして見給ふに、地蔵、まことに見え給はず。「さは、この僧に、まことに具しておはしたるにや」と思すほどに、その後、また僧都の夢に見給ふやう、塔のもとにおはして見給へば、この地蔵、立ち給ひたり。「これは失せさせ給し地蔵、いかにして出で来給ひたるぞ」とのたまへば、また、人の言ふやう、「賀能、具して地獄へ入りて、助けて帰り給へるなり。されば、御足の焼け給へるなり」と言ふ。御足を見給へば、まことに御足、黒(くろ)う焼け給ひたり。夢心地に、まことにあさましきことかぎりなし。 | ||
| + | |||
| + | さて、夢覚めて、涙止まらずして、急ぎおはして、塔のもとを見給へば、うつつにも地蔵立ち給へり。御足を見れば、まことに焼け給へり。これを見給ふに、あはれにかなしきこと、かぎりなし。さて、泣く泣くこの地蔵を抱(いだ)き出だし奉り給てけり。 | ||
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| + | 「いまにおはします。二尺五寸ばかりのほどにこそ」と人は語りし。これ、語りける人、拝み奉りけるとぞ。 | ||
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| + | ===== 翻刻 ===== | ||
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| + | これも今はむかし山の横川に賀能知院といふ僧きはめて | ||
| + | 破戒無慙のものにて昼夜に仏の物をとりつかふ事をのみ | ||
| + | ししけり横川の執行にてありけり政所へ行とて塔のもとを | ||
| + | つねに過ありきけれは塔のもとにふるき地蔵の物の中に | ||
| + | 捨をきたるをきとみたてまつりて時々きぬかふりしたるを | ||
| + | うちぬき頭をかたふけてすこしすこしうやまひおかみつつ行時 | ||
| + | もありけりかかる程にかの賀能はかなく失ぬ師の僧都是を | ||
| + | ききて彼僧は破戒無慚の物にて後世さためて地獄に落 | ||
| + | ん事うたかひなしと心うかりあはれみ給事かきりなしかかる | ||
| + | 程に塔のもとの地蔵こそこの程みえ給はねはいかなる事にか | ||
| + | と院内の人々いひあひたり人の修理したてまつらんとてとり | ||
| + | 奉たるにやなといひける程に此僧都の夢にみ給やう此 | ||
| + | 地蔵のみえ給はぬはいかなる事そと尋給にかたはらに僧有て/85オy173 | ||
| + | |||
| + | いはく此地蔵菩薩はやう賀能知院か無間地獄に落しその | ||
| + | 日やかて助んとてあひくして入給也といふ夢心ちにいと | ||
| + | あさましくていかにしてさる罪人にはくして入給たるそと問給 | ||
| + | へは塔のもとを常に過るに地蔵をみやり申て時々おかみ奉し | ||
| + | ゆへなりとこたふ夢覚て後みつから塔のもとへおはしてみ給に | ||
| + | 地蔵まことにみえ給はすさは此僧にまことにくしておはし | ||
| + | たるにやとおほす程に其後又僧都の夢に見給やう塔の | ||
| + | もとにおはしてみ給へは此地蔵立給たりこれは失させ給し | ||
| + | 地蔵いかにしていてき給たるそとのたまへは又人のいふやう | ||
| + | 賀能くして地獄へ入てたすけて帰給へるなりされは御あしの | ||
| + | やけ給へる也といふ御足をみ給へは誠に御足くろう焼給ひ | ||
| + | たり夢心ちに誠にあさましき事限なしさて夢さめて泪 | ||
| + | とまらすしていそきおはして塔のもとをみ給へはうつつにも地蔵/85ウy174 | ||
| + | |||
| + | 立給へり御足をみれは誠にやけ給へりこれをみ給にあは | ||
| + | れにかなしき事かきりなしさてなくなく此地蔵をいたき出 | ||
| + | | ||
| + | こそと人はかたりしこれかたりける人おかみたてまつりけるとそ/86オy175 | ||
| - | 「いまにおはします。二尺五寸斗の程にこそ」と人はかたりし。これ、かたりける人、おがみたてまつりけるとぞ。 | ||
text/yomeiuji/uji082.1412498572.txt.gz · 最終更新: by Satoshi Nakagawa
