text:yomeiuji:uji072
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text:yomeiuji:uji072 [2014/10/05 17:35] – Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji072 [2018/04/04 16:38] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
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**以長物忌の事** | **以長物忌の事** | ||
- | これも今はむかし、大膳亮大夫橘以長といふ蔵人の五位ありけり。宇治左大臣殿より、召ありけるに、「今明日はかたき物忌を仕事候」と申たりければ、「こはいかに、世にある物の物忌といふことやはある。たしかにまいれ」とめしきびしかりければ、恐ながらまいりにけり。 | + | ===== 校訂本文 ===== |
- | さる程に十日斗ありて、左大臣殿に、よにしらぬかたきか((傍注「御カ」))物忌いできにけり。御かどのはざまに、かいだてなどして、仁王講おこなはるる僧も、高陽院のかたの土戸より童子などもいれずして、僧斗ぞまいりける。 | + | これも今は昔、大膳亮大夫橘以長といふ蔵人の五位ありけり。宇治左大臣殿((藤原頼長))より召しありけるに、「今明日は、かたき物忌みをつかまるつこと候ふ」と申したりければ、「こはいかに、世にある者の、物忌みといふことやはある。たしかに参れ」と、召し厳しかりければ、恐れながら参りにけり。 |
- | 「御物忌あり」とこの以長ききて、いそぎまいりて、土戸よりまいらんとするに、舎人二人ゐて、「『人ないれそ』と候」とて立むかひたりけば、「やうれ、おれらよ。めされてまいるぞ」といひければ、これらもさすがに職事にて、つねにみれば力及ばでいれつ。 | + | さるほどに、十日ばかりありて、左大臣殿に、世に知らぬかたき御物忌み出で来にけり。御門のはざまに、かいだてなどして、仁王講行なはるる僧も、高陽院のかたの土戸より、童子なども入れずして、僧ばかりぞ参りける。 |
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+ | 「御物忌あり」とこの以長聞きて、急ぎ参りて、土戸より参らんとするに、舎人二人居て、「『人な入れそ』と候ふ」とて、立ち向ひたりければ、「やうれ、おれらよ。召されて参るぞ」と言ひければ、これらもさすがに職事にて、常に見れば、力及ばで、入れつ。 | ||
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+ | 参りて、蔵人所に居て、何ともなく声高に、もの言ひ居たりけるを、左府、聞かせ給ひて「このもの言ふは誰(たれ)ぞ」と問はせ給ひければ、盛兼、申すやう、「以長に候ふ」と申しければ、「いかに、かばかりかたき物忌みには、夜部(よべ)より参りこもりたるかと尋ねよ」と仰せければ、行きて、仰せの旨を言ふに、蔵人所は御前より近かりけるに、「くわ、くわ」と大声して、憚らず申すやう、「過候ひぬるころ、わたくしに物忌つかまつりて候ひしに、召され候ひき。物忌のよしを申し候ひしを、物忌みといふことやはある。たしかに参るべきよし、仰せ候ひしかば、参り候ひにき。されば、物忌といふことは候はぬと知りて候ふなり」と申しければ、聞かせ給ひて、うちうなづきて、ものも仰せられでやみにけりとぞ。 | ||
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+ | ===== 翻刻 ===== | ||
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+ | これも今はむかし大膳亮大夫橘以長といふ蔵人の五位あり | ||
+ | けり宇治左大臣殿より召ありけるに今明日はかたき物忌 | ||
+ | を仕事候と申たりけれはこはいかに世にある物の物忌と | ||
+ | いふことやはあるたしかにまいれとめしきひしかりけれは恐な | ||
+ | からまいりにけりさる程に十日斗ありて左大臣殿によに | ||
+ | しらぬかたきか(御歟)物忌いてきにけり御かとのはさまにかい | ||
+ | たてなとして仁王講おこなはるる僧も高陽院のかたの | ||
+ | 土戸より童子なともいれすして僧斗そまいりける御物忌 | ||
+ | ありとこの以長ききていそきまいりて土戸よりまいらんと | ||
+ | するに舎人二人ゐて人ないれそと候とて立むかひたりけれは | ||
+ | やうれおれらよめされてまいるそといひけれはこれらもさすか | ||
+ | に職事にてつねにみれは力及はていれつまいりて蔵人所に/75オy153 | ||
+ | |||
+ | 居てなにともなく声たかに物いひゐたりけるを左府きかせ | ||
+ | 給てこの物いふはたれそと問はせ給けれは盛兼申やう以長に | ||
+ | 候と申けれはいかにか斗かたき物忌には夜部よりまいり | ||
+ | こもりたるかと尋よと仰けれは行て仰の旨をいふに蔵人 | ||
+ | 所は御前より近かりけるにくわくわと大声して憚からす申 | ||
+ | やう過候ぬる比わたくしに物忌仕て候しにめされ候き物忌の | ||
+ | よしを申候しを物忌といふ事やはあるたしかにまいるへき由 | ||
+ | 仰候しかはまいり候にきされは物忌といふ事は候はぬとしり | ||
+ | て候也と申けれはきかせ給てうちうなつきて物もおほせ | ||
+ | られてやみにけりとそ/75ウy154 | ||
- | まいりて蔵人所に居て、なにともなく声たかに、物いひゐたりけるを、左府きかせ給て「この物いふはたれぞ」と問はせ給ければ、盛兼申やう、「以長に候」と申ければ、「いかに、か斗かたき物忌には、夜部よりまいりこもりたるかと尋よ」と仰ければ、行て仰の旨をいふに、蔵人所は御前より近かりけるに、「くわくわ」と大声して憚からず申やう、「過候ぬる比、わたくしに物忌仕て候しにめされ候き。物忌のよしを申候しを、物忌といふ事やはある、たしかにまいるべき由、仰候しかば、まいり候にき。されば、物忌といふ事は候はぬとしりて候也」と申ければ、きかせ給て、うちうなづきて物もおほせられでやみにけりとぞ。 |
text/yomeiuji/uji072.txt · 最終更新: 2018/04/04 16:38 by Satoshi Nakagawa