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text:yomeiuji:uji050

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text:yomeiuji:uji050 [2014/04/09 00:37] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji050 [2025/05/04 10:18] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 +宇治拾遺物語
 ====== 第50話(巻3・第18話)平貞文本院侍従の事 ====== ====== 第50話(巻3・第18話)平貞文本院侍従の事 ======
  
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 **平貞文本院侍従の事** **平貞文本院侍従の事**
  
-今は昔、兵衛佐平貞文をばへいちうといふ。色ごのみにて、宮つかへ人はさらなり、人のむすめなど、しのびてみぬはなかりけり。思ひかけて、文やる程の人の、なびかぬはなかりけるに、院侍従と云は、村上の御母后の女房也。世の色ごのみにてありけるに、やるににくからず返ごとはしながら、あふ事はなかりけり。+===== 校訂本文 =====
  
-「しばしこそあらめ、つゐにはさりとも」と思て、もののあはれなる、夕ぐれの空、又、月のあかき夜など、えんに人の目とどめつべき程をはからひつつをとづれければ、女もみしりて、なさけはかはしながら、心をばゆるさず。つれなくて、はしたなからぬほどに、いらへつつ、人ゐまじり、くるしかるまじき所にては、いひなどはしながら、めでたくのがれつつ、心もゆるさぬを、男はさもしらで、かくのみすぐる。+[[uji049|<<PREV]] [[index.html|『宇治拾遺語』TOP]] [[uji051|NEXT>>]]
  
-心もなくて、つねよりしげくをとづれて、「まいん」といひをこせたりけるにれいのはしたなからず、いらへたれば四月つごも、雨、おどろおどろしく降て、物おそろしげなるに、「かるおにゆきたばこそあはれも思め」とおもひていでぬ+今は昔、兵衛佐平貞文((平定文とも。))ば平中(へいちう)いふ。色好みにて、宮仕へ人はさなり、人の女(むすめ)など、忍びて見ぬはなかりけり。思ひかけて文やるほど人の、なびかぬはなかりけるに本院侍従とふは村上((村上天皇))御母后((藤原穏子))の女房な。世の色好みにてありけるに文やるに、にくらず返ごとはしながら、逢ふことはなかりけり
  
-道すがら、たへがたき雨を、「これにいきた、あで返す事も」とたのもしく思て、つぼねにゆきた人いで「うへなればあんない申さん」て、しのたにいていぬ。みれば、物のうしろに火ほのかにとて、とのゐ物とおぼしき衣、ふせごにけて、たき物めたるにほひ、なべてならず。いと心にくくて、しみて、みじとおもふに、人帰て、「ただいさせ給」といふ。うれさかぎりなし。すなはちおりたり。「かかるには、いかに」などいへば「こさはらんはむげにあさき事にこそ」などいひかはして、ちかくよりて、かをされば、こほりをのしかけたらんやうにひややかにて、あたりめでたき事かぎりなし+しばしそあめ、つひには、さりとも」と思て、もののあはなる夕ぐれの空また、月の明か夜など艶(えん)に、人の目どめつべきほどをはからひつつ、訪れば、見知りて、情けはしな、心をばゆるさず。つれなくて、はしたなからぬほどにいらへつつ、人、苦しかるまじき所は、物言ひなどはしながらめでたく逃つつ、心もゆるぬを、男さも知、かく
  
-にやかやといはぬ事どもいひかはして、うたがなくもふに、「あれ、やり戸をあけら、わすれてきにける。つとめて『たれあけながらは出にけるぞ』なわづらはき事にななんず。たて帰らん。ほどまじ」といへば、「さること」と思て、りうちとけにたば、心やすくて、きぬをめてまいらせぬ。+心もとくて常よりもしげく訪れて、「参らん」と言ひおこせたりけるに、例のしたいらへたれ四月のつごもりごろに雨、おろおどろく降りての恐しげな、「かかる折行きこそ『あはれ』も思は」と思ひ出でぬ。
  
-まことにやりどつるとして、「こへくらん」と待ほどに、ともせでおくざまへ入りぬ。それに心となく、あさましくうつし心もうせはてて、はひもいりぬべけすべき方もなくて、やりつるくやしさを思へど、かひれば、なくなくあか月ちかくぬ。+道すがら、耐へがき雨を、「これに行(い)きたらんに、逢はで返すこ、よ」と頼もしく思えて、局(つぼね)に行(ゆ)きた人出で来て、「上になれば、案内(あんない)申さん」とて、端の方に入れ往ぬ。
  
-行きておもひあかしてすかつる心うさ、かきつづけてやりたれど「何にかすかさん。帰しに、ししかば、」などひてすご+見れば、物の後ろに、火、ほのに灯して、宿直物(とのゐもの)とおぼしき伏籠(ふせご)にかけて、薫き物めたる匂ひ、なべてなず。い心にくくて、身にみて、「いみじ」と思ふに、人帰りて、「ただいま下りさせ給ふ」と言ふ。嬉さかぎりな。すなはち、下りたり。「かる雨には、いかに」など言へば、「これさはらんは、無下に浅きことにこそ」などかはし、近く寄りて、髪をさぐれば、氷をのしかけたらんやうに冷やかにて、当りめでたきことかぎりなし。
  
-「大まちき事はあるまじきめり。今はさは、この人のろくうとまからんことをみて、おもひうとまばや。かくのみ心づくし思はでありなん」と思て、ずいじんをよびて、「そのひすましのかはごもん、いとて、我にみせよ」いひければ、日ごろそひてうかがひて、からうじてにげける、をひてばい、しうにとらせ+なにややとえもいはぬことども言ひかはして、疑ひなく思ふに、「はれ、遣戸を開けながら、忘れて来にけ。つとめて『誰か、開けがらは、出でにけるぞ』など、づらはことにりなんず。立てて帰らん。ほどもあるまじ」と言へば、「さるこ」と思ひてかばうちとけにたれば、心安くて、衣(きぬ)をとどめらせ
  
-へいちう悦て、かくれゆきてみればかうるうす物の三重かさねなるに、つつみたり。かうばしき事たぐひなし。ひきときてあるにさたとえんかたなし。みればぢん・丁子をこくんじたり。またきものを、おほまろがしつつあまたいれたるままに、かしき。をしはかるべし+まこと遣戸立つる音して、「こたへ来らん」と待つほどに、音もせで、奥ざまへ入それに、心もとく、あさましく、う心も失て、這ひも入りぬべけすべつる悔しを思へど、かひなけれ、なくなく暁近く出でぬ
  
-みるに、いとあさまし。「ゆゆしげにきたらば、それにみあきてこころもやなさむとこそおもひつれこはいかなる事ぞ。かく心ある人やはある人ともおえぬありさまかないとしぬ斗おもへど、かいなし。「みんとしもやは思きにかかるこころせをみてのちはいよいよほけほけしくおもひけれつゐにあはやみけり+家に行きて、思ひあかして、すかし置きつる心憂さ、書きつづけてやりたれど、「何しにか、すかさん。帰らんとせしに、召ししかば、後にも」など言ひて過しつ。 
 + 
 +「おほかた、ま近きことは、あるまじきなめり。今は、さは、この人の悪(わろ)く踈(うと)ましからんことを見て、思ひ踈まばや。かくの心づくしに、思はでありなん」と思ひて、随身を呼びて、「その人のひすましの皮籠(かはご)持て行かん、奪(ば)ひ取りて、われに見せよ」と言ひければ、日ごろ、添ひてうかがひて、からうじて逃げけるを、追ひて、奪ひ取りて、主(しう)に取らせつ。 
 + 
 +平中、悦びて、隠れに持て行きて、見れば、香なる薄物の、三重重ねなるに包みたり。香ばしきこと、たぐひなし。引き解きて開くるに、香ばしさ、喩へんかたなし。みれば沈(ぢん)・丁子を濃く煎じて入れたり。また、薫物を多くまろがしつつ、あまた入れたり。さるままに、かうばしき。推し量るべし。 
 + 
 +るに、いとあさまし。「ゆゆしげにきたらば、それに見飽きて、心もや慰む』とこそ思ひつれ。こは、いかなることぞ。かく心ある人やはある。ただ人とも思えぬありさまかな」と、いとど死ぬばかり思へど、かひなし。「わが見んとしもやは思ふべきに」と、かかる心ばせを見てのちは、いよいよ呆(ほ)け呆けしく思ひけれど、つひに逢はでやけり。 
 + 
 +「わが身ながらも、かれに、よに恥ぢがましく、妬く思えし」と、平中、みそかに人と忍びて、語りけるとぞ。 
 + 
 +[[uji049|<<PREV]] [[index.html|『宇治拾遺物語』TOP]] [[uji051|NEXT>>]] 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  今は昔兵衛佐平貞文をはへいちうといふ色このみにて宮つ 
 +  かへ人はさらなり人のむすめなとしのひてみぬはなかりけり思ひ/57ウy118 
 + 
 +  かけて文やる程の人のなひかぬはなかりけるに本院侍従と云は 
 +  村上の御母后の女房也世の色このみにてりけるに文やるに 
 +  にくからす返ことはしなからあふ事はなかりけりしはしこそあらめ 
 +  つゐにはさりともと思てもののあはれなる夕くれの空又月の 
 +  あか夜なとえんに人の目ととめつへき程をはからひつつをと 
 +  つれけれは女もみしりなさけはかはしなから心をはゆるさすつれ 
 +  なくてはしたなからぬほとにいらへつつ人ゐましりくるしかる 
 +  ましき所にては物いひなとはしなからめてたくのかれつつ心もゆる 
 +  さぬを男はさもしらてかくのみすくる心もとなくてつねよりも 
 +  しけくをとつれてまいらんといひをせたりけるにれいのはしたなから 
 +  すいらへたれは四月のつもり比に雨おとおとろしく降て物おそろ 
 +  しけなるにかかるおりにゆきたらはこそあはれと思はめとおもひて 
 +  いてぬ道すからたへかたき雨をこれにいきたらんにあはて/58オy119 
 + 
 +  返す事よもとたのもしく思てつほねにゆきたれは人いてき 
 +  てうへになれはあんない申さんとてはしのかたにいれていぬみれは 
 +  物のうしろに火ほのかにともしてとのゐ物とおほしき衣ふせこ 
 +  にかけてたき物しめたるにほひなへてならすいと心にくくて身に 
 +  しみていみしとおもふに人帰てたたいまおりさせ給といふうれしさ 
 +  かきりなしすなはちおりたりかかる雨にはいかになといへはこれに 
 +  さはらんはむけにあさき事にこそなといひかはしてちかくよりて 
 +  かみをさくれはこほりをのしかけたらんうにひややかにてあたりめ 
 +  てたき事かきりしなにやかやとえもいはぬ事ともいひか 
 +  はしてうたかひなくおもふにあはれやり戸をあけなからわすれて 
 +  きにけるつとめてたれかあけなからは出にけるそなとわつらはし 
 +  き事になりなんすたてて帰らんほともあるましといへはさる 
 +  ことと思てかはかりうちとけにたれは心やすくてきぬをととめ/58ウy120 
 + 
 +  てまいらせぬまことにやりとたつるをとしてこなたへくらんと待 
 +  ほとにをともせておくさまへ入りぬそれに心もとなくあさましく 
 +  うつし心もうせはててはひもいりぬへけれとすへき方もなくて 
 +  やりつるくやしさを思へとかひなけれはなくなくあか月ちかくいてぬ 
 +  家に行きておもひあかしてすかしをきつる心うさかきつつけてや 
 +  りたれと何しにかすかさん帰らんとせしにめししかは後にも 
 +  なといひてすこしつ大かたまちかき事はあるましきなめり 
 +  今はさはこの人のわろくうとましからんことをみておもひうとま 
 +  はやかくのみ心つくしに思はてありなんと思てすいしんをよひて 
 +  そのひとのひすましのかはこもていかんはいとりて我にみせよといひ 
 +  けれは日ころそひてうかかひてからうしてにけけるををひてはい 
 +  とりてしうにとらせつへいちう悦てかくれにもてゆきてみれはかう 
 +  なるうす物の三重かさねなるにつつみたりかうはしき事たくひ/59オy121 
 + 
 +  なしひきときてあくるにかうはしさたとへんかたなしみれは 
 +  ちん丁子をこくせんしていれたりまたたきものをおほくまろ 
 +  かしつつあまたいれたりさるままにかうはしきをしはかるへし 
 +  みるにいとあさましゆゆしけにをきたらはそれにみあきて 
 +  こころもやなくさむとこそおもひつれこはいかなる事かく 
 +  心ある人やはあるた人ともおえぬありさまかなといと 
 +  ぬ斗おもへかいなしわみんとしもやは思きにとかかる 
 +  こころせをみてのちはいよいよほけほけしくおもひけれと 
 +  つゐにあはやみけり我か身なからもかれによにはちかましく 
 +  ねたくおほえしとへいちうみそかに人としのひてかた 
 +  りけるとそ/59ウ122
  
-「我が身ながらも、かれに、はぢがましくねたくおぼえし」と、へいちう、みそかに人としのびてかたりけるとぞ。 
text/yomeiuji/uji050.1396971430.txt.gz · 最終更新: by Satoshi Nakagawa