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text:yomeiuji:uji039

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text:yomeiuji:uji039 [2014/09/28 01:48] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji039 [2025/05/02 20:55] (現在) Satoshi Nakagawa
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 **虎の鰐取りたる事** **虎の鰐取りたる事**
  
-これも今は昔、筑紫の人、あきなひしに新羅に渡りけるが、あきなひはてて帰みちに、山の根にそひて、舟に水くみ入んとて、水の流出たる所に舟をとどめて水をくむ。其程、舟にのりたる物、舟ばたにゐて、うつふして海をみれば、山のかげうつりたり。たかき岸の三四十丈ばかりあまりたるうへに、虎つづまりゐて物をうかがふ。その影、水にうつりたり。+===== 校訂本文 =====
  
-其時に、人々につげて、水くむをいそぎよびのせて、手ごとに櫓ををして、いそぎて舟をいだす。其時に虎おどりおりて舟にのるに、舟はとくいづ。とらはおちくる程のありければ、いま一丈ばかりを、えおどりつかで、海に落入ぬ。舟を漕て、いそぎて行ままに、此虎に目をかけてみる。+[[uji038|<<PREV]] [[index.html|『宇治拾遺語』TOP]] [[uji040|NEXT>>]]
  
-しばしありて、虎、海よぬ。をよぎてくがざまにのぼりて、汀にひらなる石のうへにのるをれば、左のまへあしをよりかみ食きられて血あゆ。「鰐にくひきられたる也けりみる程にそのきれたる所を水にひたしてひらりおるをいかにするにかとみる程に沖の方よりわに虎のかたをさしてくるとみる程に右のまへ足をもてわにの頭に爪をうちたててまになば、一丈かり浜になられぬのけまになりてふためくおとひのしたをりかかりて食て二た三たびばかりうちふりてなへなへとなしてかたにうちかけて手をたてたるやうなる岩の五六丈あるを三の足をもちてり坂をはしるとくのりてゆけば、舟のうちなる物これしわをみるになからは死入ぬ+これも今は昔、筑紫の人、商(あきな)ひに新羅に渡りけるが、商ひ果てて帰り道に、山の根にそひて、舟に水汲み入れんとて、水の流れ出でたる所に舟をとどめて、水を汲む。そのほど、舟にのりたる者、舟たに居て、うつふて海を見れば、山の影映りたり。高き岸の、三・四十丈ばかりたる上に、虎、つづまり居、ものをうかがふ。その影、水に映りたり。 
 + 
 +その時に人々に告げて、水汲む者を急ぎ呼び乗せて、手ごとに櫓(ろ)を押して、急ぎて舟を出だす。その時に、虎、下(お)りて、舟に乗るに、舟はとく出づ。虎は落ち来るほどのありければ、今一丈ばかりを、え踊り着かか、海に落ち入りぬ。漕ぎて、急ぎて行くままに、この虎に目をかけて見る。 
 + 
 +しばしばかりありて、虎、海り出で来ぬ。泳ぎて陸(くが)ざまにりて、汀に平(ひら)なる石の上に登るを見れば、左の前足を、膝より噛み食ひ切られて、血あゆ。「鰐(わに)に食ひ切られたるなりけり」と見るほどに、その切れたる所を水に浸(ひた)して、平がりをるを、「いかにするにか」と見るほどに、沖の方より、鰐、虎の方を指して来ると見るほどに、虎、右の前足をもて、鰐の頭に爪をち立てて、陸ざまに投げ上ぐれば、一丈ばかり浜に投げ上げられぬ。のけざまになりて、ふためく。おとがひの下を、踊りかかりて食ひて、二度(たび)、三度ばかりうち振りて、ななへとなして、肩うちかけて、手を立てたるやうなる岩五・六丈あるを、三つの足をもちて、下り坂を走るごとく登りて行けば、舟の内なる者ども、こがしわざを見るに、なからは死に入りぬ。 
 + 
 +「舟に飛びかかりたらましかば、いみじき釼・刀を抜きてあふとも、かばかり力強く、早からんには、なにわざをすべきぞ」と思ふに、肝心失せて、舟漕ぐ空もなくてなん、筑紫には帰りけるとかや。 
 + 
 +[[uji038|<<PREV]] [[index.html|『宇治拾遺物語』TOP]] [[uji040|NEXT>>]] 
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 +===== 万治二年版本挿絵 ===== 
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 +{{:text:yomeiuji:ujipic12.jpg?600|}} 
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 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  これも今は昔筑紫の人あきなひしに新羅に渡りけるかあきなひ 
 +  はてて帰みちに山の根にそひて舟に水くみ入んとて水の流出たる所に/46ウy96 
 + 
 +  舟をととめて水をくむ其程舟にのりたる物舟はたにゐてうつふして海を 
 +  みれは山のかけうつりたりたかき岸の三四十丈はかりあまりたるうへに虎つつまり 
 +  ゐて物をうかかふその影水にうつりたり其時に人々につけて水くむ物を 
 +  いそきよひのせて手ことに櫓ををしていそきて舟をいたす其時に虎 
 +  おとりおりて舟にのるに舟はとくいつとらはおちくる程のありけれはいま一丈 
 +  はかりをえおとりつかて海に落入ぬ舟を漕ていそきて行ままに此虎に 
 +  目をかけてみるしはし斗ありて虎海よりいてきぬをよきてくか 
 +  さまにのほりて汀にひらなる石のうへにのほるをみれは左のまへあしをひさ 
 +  よりかみ食きられて血あゆ鰐にくひきられたる也けりとみる程にそのきれ 
 +  たる所を水にひたしてひらりおるをいかにするにかとみる程に沖の方より 
 +  わに虎のかたをさしてくるとみる程に虎右のまへ足をもてわにの頭に 
 +  爪をうちたてて陸まにな一丈かり浜になられぬのけまに 
 +  なりてふためくおとひのしたをおりかかりて食て二た三たひはかりうち/47オy97 
 + 
 +  ふりてなへなへとなしてかたにうちかけて手をたてたるやうなる岩の五六 
 +  丈あるを三の足をもちてくり坂をはしるとくのりてゆけは 
 +  舟のうちなる物もこれしわをみるになからは死入ぬ舟に飛かかり 
 +  たらましかはいみしき釼刀をぬきてあふともかはかり力つよくはやからん 
 +  にはなにわさをすへきそとおもふに肝心うせて舟こく空もなくて 
 +  なんつくしには帰りけるとかや/47ウy98
  
-「舟に飛びかかりたらましかば、いみじき釼刀をぬきてあふとも、かばかり力つよく、はやからんにはなにわざをすべきぞ」と、おもふに、肝心うせて舟こぐ空もなくてなん、つくしには帰りけるとかや。 
text/yomeiuji/uji039.1411836484.txt.gz · 最終更新: by Satoshi Nakagawa