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text:yomeiuji:uji027 [2014/09/27 18:09] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji027 [2025/05/01 18:25] (現在) Satoshi Nakagawa
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 **季通、事に逢はんと欲する事** **季通、事に逢はんと欲する事**
  
-むかし駿河前司橘季通といふ物ありき。それがわかかりける時、さるべき所なりける女房を忍て行かよひける程に、そこにありける侍ども「なま六位の家人にてあらぬが、よひ暁に、この殿へ出入事わびし。これたてこめてかうぜん」と、いふ事をあつまりていひあはせけり。+===== 校訂本文 =====
  
-かかる事をもしらで、例の事なれば小舎人童一人具して局に入ぬ。童をば「暁迎にこよ」とて返しやりつ。此うたんとするをのこども、うかがひまもりければ「例のぬしきて局に入ぬるは」と、告げまはして、かなたこなたの門どもをさしまはて、かぎとりをきて、侍どもひき杖して築地のくづれなどのある所に立ふたがりてまもりけるを、その局のめの童、けしきとりて主の女房に「かかる事のさぶらふは、いかなる事にか候らん」と、告げければ、主の女房もきき驚にたり。ふしたりけるが、おきて季通も装束してゐたり。女房、うへにのぼりて尋ぬれば「侍どもの心合せてする」とはいひながら、主のおとこも空しらずしておはする事と聞えて、すべきやうなくて、局に帰りてなきゐたり。+[[uji026|<<PREV]] [[index.html|『宇治拾遺物語』TOP]] [[uji028|NEXT>>]]
  
-季通みじわざ恥をみてんず」と思へども、すべきやうし。めの童出し出て「いぬべすこしのまやあ。」とみせども「さやうのひる所は四五人づつくくりをあけそばをはさみて、太刀をはき、杖をきはさみつつみなたてりければ、出べきやもなし」とひけり。+昔、駿河前司橘季通ふ者あり。それが若りける時さるべきりける女房忍びほどにそこにありる侍どもなま六位、家人にてあらぬが、宵暁(よひあかつき)に、この殿へ出で入ること、わびし。これ、たてこめて勘(か)ぜん」と言ふことを、集りて、言合はせけり。
  
-この駿河前司は、いみじう力ぞつよりけ。「いかがせん。明ぬとも、局にもりゐこそはひきいでに入こんものと取あひてしなめさりも夜明我ぞ人ぞとしり後には、もかくもえせじ。ずんざどもよびにやりてこそ出てもゆめ」と思ゐたりけり。暁にこ童のきて、心もえずたきなどして、わが小舎人童と心えられて、とらへばられやずらん」とぞ不便ればの童を出して「もしや聞つくと、がひけをも、侍どもはしたなくいひければ、つつ帰てかがまりゐたり+知らでのことなれば、小舎人童一人具して、に入りぬ童をば「暁、迎へに来よ」とて、つ。この打たんとする男(をのこ)ども、うがひ守りければ、ぬし来て、局に入りぬるは」と告げまはしてかなたの門もをさしまはして、鍵取り置きて、侍ども、引き杖築地の崩などのある所、立ちふたがりて守りるをその局の女の童、気色とり、主の女房に、かかのさぶらふはことにか候ふらん」と告げければ、主の女房も聞驚く
  
-かかる程に「暁方になぬらん」とおもふほどに、此童いかにしてか入ん、入くをとするを侍「たそ、その童は」と、けしとりとへば「あくいらへなんず」と思ゐたるほどに「御ど経の僧の童子に侍」となのる。さなのられて「とく過よ」といふ。「かしこくいらつる物かな。よりきて、れいよぶめの童の名やよばんずらん」と、又それを思ゐたる程、よもこで過。此童も心えてけり。うるせきやつぞかし。さ心えては、さりともたばかる事あらんずらん。と、童の心をしりたれば、たのしく思たる程に、大路に女こゑして「ひぎあり、人ころや」、をめく。それをききて、このたてる侍ども「あれからめよや、けしうあらじ」といひて、みはしりかかりて門をえあけあへくづれより、しりいでつつ、「いづかたへいぬぞ」「なた。かなた」尋さはぐ程に、「此童のはかる事よ」と思いければ、走り見るに門をさしたれば、門をばたがはず、づれのもとに、かたへはとまりて、とかくいふ程、門のもとに走りよりて、じやうをねじて引ぬてあくるままに走のきて築地はしすぐる程にぞ、此童は、はしりあひたる+二人臥したりけるきて、季通も装束ゐたり。女房上(う)りてぬれば、「侍どもの心合てすとはいひながら主の男(おとこ)空知らしておること」と聞こえて、すべきやくて、りて、ゐたり。
  
-ぐして三町走のびて、れいのやうにのどかにあゆみて「いかにしりつるぞ」とひければ「門どもの例ならずさされたるにあはせてくづれに侍の立ふたがりて、きびしげに尋ひさぶらひつれば、そこにては御読経の僧の童子と名り侍りつれば、で侍つるを、それよりまかり帰て、『とかくやせまし』と思給つれども、まりたりとしられたてまつりてはあしかりぬくおはし侍りつれば、声をきかれたてまつりてて帰出て此隣なるめらはのくそまりゐて侍をしゃ頭をとりてうちふせてきぬをは侍りつれば、おめき候つるこゑにつきて人々いまうきつれば、『今はさりとも出させ給ぬらん思てこなたまにまいりあひつるなりぞ、いひける+季通、「いみじきわざかな。恥を見てんず」と思へども、すべきやうなし。女の童を出だして、「出て去ぬべき。すこしのひまやある。」と見せけれども、「さやうのひまある所には、四・五人づつ、くくりを上げ、そばを挟みて、太刀を帯(は)き、杖を脇挟みつつ、みな立てりければ、出づべきやうもなし」と言ひけり。 
 + 
 +この駿河前司は、いみじう力ぞ強かりける。「いかがせん。明けぬとも、この局にこもり居てこそは、引き出でに入り来んものと、取り合ひて死なめ。さりとも、夜明けて後、われぞ人ぞと知りなん後には、ともかくもえせじ。従者(ずんざ)ども呼びにやりてこそ、出ても行かめ」と思ひゐたりけり。 
 + 
 +「暁に、この童の来て、心も得ず門叩きなどして、わが小舎人童と心得られて、捕へ縛られやせんずらん」と、それぞ不便(ふびん)に思えければ、女の童を出だして、「もしや聞き付くる」とうかがひけるをも、侍ども、はしたなく言ひければ、泣きつつ帰りて、屈(かが)まり居たり。 
 + 
 +かかるほどに、「暁方になりぬらん」と思ふほどに、この童、いかにしてか入りけん、入り来る音するを、侍「誰(た)そ、その童は」と気色取りて問へば、「悪しくいらへなんず」と思ひ居たるほどに、「御読経の僧の童子に侍り」と名乗る。さ名乗られて、「とく過ぎよ」と言ふ。「かしこくいらへつるものかな。寄り来て、例呼ぶ女の童の名や呼ばんずらん」と、また、それを思ひ居たるほどに、寄りも来で、過ぎて去ぬ。 
 + 
 +「この童も心得てけり。うるせき奴ぞかし。さ心得ては、さりとも、たばかることあらんずらん」と、童の心を知りたれば、頼もしく思ひたるほどに、大路に女声して、「引剥(ひは)ぎありて、人殺すや」とをめく。それを聞きて、この立てる侍ども、「あれ搦めよや。けしうはあらじ」と言ひて、みな走りかかりて、門をもえ開けあへず、崩れより走り出でつつ、「いづかたへ往ぬるぞ」、「こなた」、「かなた」と尋ね騒ほどに、「この童のはかることよ」と思ひければ、走り出でて見るに、門をさたれば、門をば疑はず、崩れのもとに、かたへは止まり、とかく言ふほどに、門のもとに走り寄りて、錠(じやう)をねじて引き抜きて、開くるままに走りのきて、築地走り過ぐるほどにぞ、この童は走り合ひたる。 
 + 
 +具して、三町ばかりのびて、のやうにのどかにみて「いかにしりつることぞ」とひければ「門どもの例ならずさされたるにあはせて、崩れに侍どもの立ふたがりて、しげに尋ね問ひさぶらひつれば、そこにては、『御読経の僧の童子と名り侍りつれば、で侍つるを、それよりまかり帰て、『とかくやせまし』と思つれども、『参りたり』と知られ奉らでは、悪しかりぬべく思え侍りつれば、声を聞かれ奉りて((底本「たててて」。衍字とみて一字削除))、帰り出でて、この隣なるめらはの、糞まりゐて侍るを、しゃ頭を取りて、うち伏せて衣(きぬ)を剥ぎ侍りつれば、をめき候ひつる声につきて、人々出で詣で来つれば、『今はさりとも、出ださせ給ひぬらん』と思ひて、こなざまに参合ひつるなり」ぞ言ひける。 
 + 
 +童なれども、かこく、うるせきものは、かかることをぞしける。 
 + 
 +[[uji026|<<PREV]] [[index.html|『宇治拾遺物語』TOP]] [[uji028|NEXT>>]] 
 + 
 +===== 万治二年版本挿絵 ===== 
 + 
 +{{:text:yomeiuji:ujipic08.jpg?600|}} 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  むかし駿河前司橘季通といふ物ありきそれかわかかりける時さるへき 
 +  所なりける女房を忍て行かよひける程にそこに有ける侍ともなま 
 +  六位の家人にてあぬかよひ暁にこの殿へ出入事わひしこれたてこめ 
 +  てかうせんといふ事をあつりていひあはせけりかかる事をもしらて 
 +  例の事なれは小舎人童一人具して局に入ぬ童をは暁迎にこよとて 
 +  返しやり此うたんとするをのこともうかかひまもけれは例のぬしき 
 +  局に入ぬると告けまはしてかなたこなたの門ともをさしまはしてかき 
 +  とりをきて侍ともひき杖して築地のくつれなとのる所に立ふた 
 +  かりてまもりけるをその局のめの童けきとりて主の女房にかる/33ウy70 
 + 
 +  事のさふらふはいかなる事にか候らんと告けけれは主の女房もきき驚 
 +  ふたふしたりけるかおきて季通も装束してゐたり女房うへにのほ 
 +  りて尋れは侍ともの心合せてするとはいひなから主の男も空しら 
 +  すしておはする事と聞えてすへきやうなて局に帰りてなきゐたり 
 +  季通いみしきわさかな恥をみてんすと思へともすへきやうなしめの童 
 +  を出して出ていぬへきすこしのひまやあるとみせけれともさやうの 
 +  ひまある所には四五人つつくくりをあけそはをはさみて太刀をはき 
 +  杖をわきはさみつつみなたてりけれは出へきやうもなしといひけり 
 +  この駿河前司はいみしう力そつよかりけるいかかせん明ぬともこの局に 
 +  こもりゐてこそはひきいてに入こんものと取あひてしなめさりとも夜明 
 +  て後我そ人そとしりなん後にはともかくもえせしすんさともよひに 
 +  やりてこそ出てもゆかめと思ゐたりけり暁にこの童のきて心もえ 
 +  す門たたきなとしてわか小舎人童と心えられてとらへしはられや/34オ71 
 + 
 +  せんすらんとそれそ不便に覚けれはめの童を出してもしや聞つくる 
 +  とうかかひけるをも侍ともはしたなくいひけれはなきつつ帰てかかまり 
 +  ゐたりかかる程に暁方になりぬらんともふほとに此童いかにしてか入 
 +  けん入くるをとするを侍たそその童とけきとりてとへはあしく 
 +  いらへなんすと思ゐたるほとに御と経の僧の童子にとなのるさなのら 
 +  れてとく過よといふかしこくいらへつる物かなよきてれいよふめの 
 +  童の名やよはんすらんと又それを思ゐたる程によりもこて過て 
 +  いぬ此童も心えてけりうるせきやそかしさ心えてはさりともたは 
 +  かる事あらんすらんと童の心をしりたはたのもしく思たる程に大路に女 
 +  こゑしてひはきありて人ころすやとをめくそれをききてこのたて 
 +  る侍ともあれからめよやけしうはあらしといひてみなはしりかかりて 
 +  門をもえあけあへすくつれよりはしりいてつついつかたへいぬるそこ 
 +  なたかなたと尋さはく程に此童のはかる事よと思けれは走出て/34ウy72 
 + 
 +  見るに門をさしたれは門をはうたかはすくつれのもとにかたへはとまりて 
 +  とかくいふ程に門のもとに走よりてしやうをねして引ぬきてあくる 
 +  ままに走のきて築地はしりすくる程にそ此童ははしりあひたるくして 
 +  三町斗走のひてれいのやうにのとかにあゆみていかにしたりつる事 
 +  そといひけれは門ともの例ならすさされたるにあはせてくつれに侍共 
 +  の立ふたかりてきひしけに尋とひさふらひつれはそこにては御読 
 +  経の僧の童子と名のり侍りつれはいて侍つるをそれよりまかり帰て 
 +  とかくやせましと思給つれともまいりたりとしられたてまつらてはあしかり 
 +  ぬへくおほえ侍りつれは声をきかれたてまつりてて帰出て此隣なる 
 +  めらはのくそまりゐて侍をしゃ頭をとりてうちふせてきぬをは侍り 
 +  つれおめき候つるこゑにつきて人々いまうきつれ今はさり 
 +  とも出させ給ぬらんと思てこなたまにまいりあひつるなりといひ 
 +  ける童なれともかしこくうるせきものはかかる事をそしける/35オy73
  
-童なれどもかしこくうるせきものはかかる事をぞしける。 
text/yomeiuji/uji027.1411808989.txt.gz · 最終更新: by Satoshi Nakagawa