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text:uchigiki:uchigiki06 [2018/04/28 19:09] – [校訂本文] Satoshi Nakagawatext:uchigiki:uchigiki06 [2018/05/19 16:21] (現在) – [第6話 大師五鈷を投げ給ふ事] Satoshi Nakagawa
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 打聞集 打聞集
-====== 第6話 大師五鈷を投げ給ふ事 ======+====== 第6話 大師五鈷を投げ給ふ事 ======
  
 ===== 校訂本文 ===== ===== 校訂本文 =====
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 この鷹養の翁、「聖人、ここに住み給はば、おのれは守り奉る身とあるべし」と言へば、大師、鷹養の((「鷹養の」は、底本「の」虫損。文脈により補う。))翁に、「そこは誰(たれ)とか申す」と問ひ給へば、「丹生(にふ)の明神となむ((「なむ」底本「な」破損。文脈により補う。))申す」と言ひて、二人ながら、かい消つやうに失す。 この鷹養の翁、「聖人、ここに住み給はば、おのれは守り奉る身とあるべし」と言へば、大師、鷹養の((「鷹養の」は、底本「の」虫損。文脈により補う。))翁に、「そこは誰(たれ)とか申す」と問ひ給へば、「丹生(にふ)の明神となむ((「なむ」底本「な」破損。文脈により補う。))申す」と言ひて、二人ながら、かい消つやうに失す。
  
-大師、帰りて弟子ども具して、寺を造り、定の所も造りて、窟(ほら)を開きつつ、御髪を剃り、御装を着せかへ奉りなどしける。絶□□る((底本、二字程度虫損。))こともせで、般若僧正(([[:text:k_konjaku:k_konjaku11-25|『今昔物語集』1125]]によると、「般若寺の観賢僧正」))の宗長者にておはしける折、この大師には曽孫(ひひご)弟子になむ当り給ひける、かやうに参り給ひて、この窟(ほら)を開け給ひたりければ、霧の立ちて、つつ闇(やみ)にて、物も見えざりければ、しばしばかりありて、霧の居るを見る。御装の朽ちたりけるに、風の入りて吹きければ、塵(ちり)になりて吹き立てられけるが、霧とは見るなりけり。+大師、帰りて弟子ども具して、寺を造り、定の所も造りて、窟(ほら)を開きつつ、御髪を剃り、御装を着せかへ奉りなどしける。絶□□る((底本、二字程度虫損。))こともせで、般若僧正(([[:text:k_konjaku:k_konjaku11-25|『今昔物語集』11-25]]によると、「般若寺の観賢僧正」))の宗長者にておはしける折、この大師には曽孫(ひひご)弟子になむ当り給ひける、かやうに参り給ひて、この窟(ほら)を開け給ひたりければ、霧の立ちて、つつ闇(やみ)にて、物も見えざりければ、しばしばかりありて、霧の居るを見る。御装の朽ちたりけるに、風の入りて吹きければ、塵(ちり)になりて吹き立てられけるが、霧とは見るなりけり。
  
 □り((□は漢字のように見えるが、判読できず。「塵り」か「霧り」と考えられるが、いずれの字形でもない。))、静まりて後に、大師は見え給ひける。御髪は一尺ばかり生ひておはしければ、水沐浄衣を着□む。御髪は新かふ剃りして、剃り奉り給ひける。水精念珠の朽ちて絶えにければ、御前に散りたりけるを、取り聚(あつ)めて、緒(を)うるわしうすげて、御手に繋け奉り給へりけり。御装なむいみじく浄くしまうけて着奉り給ひて、窟掘りふたぎ給ふとてなむ、今始めて別れむやうに、不覚に泣き給ひける。 □り((□は漢字のように見えるが、判読できず。「塵り」か「霧り」と考えられるが、いずれの字形でもない。))、静まりて後に、大師は見え給ひける。御髪は一尺ばかり生ひておはしければ、水沐浄衣を着□む。御髪は新かふ剃りして、剃り奉り給ひける。水精念珠の朽ちて絶えにければ、御前に散りたりけるを、取り聚(あつ)めて、緒(を)うるわしうすげて、御手に繋け奉り給へりけり。御装なむいみじく浄くしまうけて着奉り給ひて、窟掘りふたぎ給ふとてなむ、今始めて別れむやうに、不覚に泣き給ひける。
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 ===== 翻刻 ===== ===== 翻刻 =====
  
-  昔弘法大師唐渡給真言恵(けい)果阿闍梨習給得給たりける五古唐(もろこしの)岸 +  昔弘法大師唐渡給真言恵(ケイ)果阿闍梨習給得給タリケル五古唐(モロコシノ)岸 
-  立給日本方我定弥勒御世にてへき此五古落 +  立給日本方我定弥勒御世ニテヘキ此五古落 
-  投給けれは飛雲中入此国帰坐王(をほやけ)伝得仏法真言事□申給 +  投給ケレハ飛雲中入此国帰坐王(ヲホヤケ)伝得仏法真言事□申給 
-  東寺真言弘めなと年漸々老給程我投五古落たらむ所尋思 +  東寺真言弘メナト年漸々老給程我投五古落タラム所尋思 
-  所々見給无紀伊国伊都()郷たかののにをはしたれは年老をきな白毛馬 +  所々見給无紀伊国伊都()郷タカノノニヲハシタレハ年老ヲキナ白毛馬 
-  乗ふもとにをはしてをつかひ犬養具たり此鷹養大師問奉るなそ +  乗フモトニヲハシテヲツカヒ犬養具タリ此鷹養大師問奉ルナソ 
-  聖人のかくては往給そとにて入定すへき此五古とて所求 +  聖人ノカクテハ往給ソトニテ入定スヘキ此五古トテ所求 
-  往なりといらへ給鷹養其所はをのれこそたれとをのれか馬尻ていませ +  往ナリトイラヘ給鷹養其所ハヲノレコソタレトヲノレカ馬尻テイマセ 
-  をしへたいまつらむとはいとうれしきなりと馬尻往山中百丁許入 +  ヲシヘタイマツラムトハイトウレシキナリト馬尻往山中百丁許入 
-  山中くたちをたるにてめくりにたちのほれりいはむなくなる +  山中クタチヲタルニテメクリニタチノホレリイハムナクナル 
-  竹林生並たり一本檜中大またに五古うちてたり喜悲事限无 +  竹林生並タリ一本檜中大マタニ五古ウチテタリ喜悲事限无 
-  此とは此鷹養のをきな聖人此住給はをのれは +  此トハ此鷹養ノヲキナ聖人此住給ハヲノレハ 
-  身とあるへしと大師鷹養□をきなにそこはたれとか問給はにふの明神/d16+  身トアルヘシト大師鷹養□ヲキナニソコハタレトカ問給ハニフノ明神/d16
  
 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1192812/16 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1192812/16
  
-  □すと二人なからかいけつやうに失大師帰弟子共具寺造定 +  □スト二人ナカラカイケツヤウニ失大師帰弟子共具寺造定 
-  所窟(ほら)つつ御髪をそり御装をきせ返奉なとしける絶□□事 +  所窟(ホラ)ツツ御髪ヲソリ御装ヲキセ返奉ナトシケル絶□□事 
-  もせて般若僧正宗長者にてをはしけるをり此大師にはひゐこ弟子になむあたり +  モセテ般若僧正宗長者ニテヲハシケルヲリ此大師ニハヒヰコ弟子ニナムアタリ 
-  給ひけるかやうに参給此窟開給たりけれはてつつやみにて見 +  給ヒケルカヤウニ参給此窟開給タリケレハテツツヤミニテ見 
-  えさりけれはしはし許有るを見御装のくちたりけるに +  エサリケレハシハシ許有ルヲ見御装ノクチタリケルニ 
-  けれはちりに吹立られけるかとはけりりしつまりて大師 +  ケレハチリニ吹立ラレケルカトハケリリシツマリテ大師 
-  給ける御髪一尺許生御坐けれは水沐浄衣着□御髪かふそり +  給ケル御髪一尺許生御坐ケレハ水沐浄衣着□御髪カフソリ 
-  して剃奉ひける水精念珠のくちてにけれは御前たりけるを +  シテ剃奉ヒケル水精念珠ノクチテニケレハ御前タリケルヲ 
-  取うるわしうすけて御手繋奉給へりけり御装なむいみしく +  取ウルワシウスケテ御手繋奉給ヘリケリ御装ナムイミシク 
-  まうけて着奉給ほりふたきとてなむ今始れむ不覚泣給ける +  マウケテ着奉給ホリフタキトテナム今始レム不覚泣給ケル 
-  其より怖奉人无たるをりはなるたうのすこし開 +  其ヨリ怖奉人无タルヲリハナルタウノスコシ開 
-  山なるをりは打音なと種々あやしき事有鳥音□不なり +  山ナルヲリハ打音ナト種々アヤシキ事有鳥音□不ナリ 
-  つゆ物怖からす坂一二丁許下てにふのたかのの明神鳥居てなむ +  ツユ物怖カラス坂一二丁許下テニフノタカノノ明神鳥居テナム 
-  をはすめるけふなるとて于今人参女人不登/d17+  ヲハスメルケフナルトテ于今人参女人不登/d17
  
 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1192812/17 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1192812/17
  
text/uchigiki/uchigiki06.1524910142.txt.gz · 最終更新: 2018/04/28 19:09 by Satoshi Nakagawa