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text:turezure:k_tsurezure177.txt

徒然草

第177段 鎌倉中書王にて御鞠ありけるに・・・

校訂本文

鎌倉中書王1)にて、御鞠ありけるに、雨降りて後、いまだ庭の乾かざりければ、「いかがせん」と沙汰ありけるに、佐々木隠岐入道2)、鋸のくづを車に積みて、多く奉りたりければ、一庭(ひとには)に敷かれて、泥土の煩ひなかりけり。「取り溜めけん用意ありがたし」と、人、感じあへりけり。

このことをある者の語り出でたりしに、吉田中納言の、「乾き砂子(すなご)の用意やはなかりける」と、のたまひたりしかば、恥づかしかりき。

「いみじ」と思ひける鋸のくづ、賤しく異様(ことやう)のことなり。庭の儀を奉行する人、乾き砂子をまうくるは、故実なりとぞ。

翻刻

鎌倉中書王にて。御鞠ありけるに。雨ふり
て後。いまだ庭のかはかざりければ。いかが
せんと沙汰有けるに。佐々木隠岐入道。
鋸のくづを車につみて。おほく奉り
たりければ。一庭に敷れて。泥土のわづらひ
なかりけり。とりためけん用意ありがた
しと人感じあへりけり。此事をある
もののかたり出たりしに。吉田中納言
の。かはきすなごのよういやはなかりけると
のたまひたりしかば。はづかしかりき。いみじと/k2-34r
おもひける鋸のくづ。賤くことやうの事
也。庭の儀を奉行する人。かはきす
なごをまうくるは。故実なりとぞ/k2-34l

http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0002/he10_00934_0002_p0034.jpg

1)
後嵯峨天皇皇子宗尊親王
2)
佐々木政義・真願
text/turezure/k_tsurezure177.txt.txt · 最終更新: 2018/10/14 12:54 by Satoshi Nakagawa