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徒然草
第75段 つれづれわぶる人はいかなる心ならん・・・
校訂本文
つれづれわぶる人は、いかなる心ならん。まぎるるかたなく、ただ一人あるのみこそよけれ。
世に従へば、心、外(ほか)の塵に奪はれて惑ひやすく。人にまじはれば、言葉、よその聞きに随(したが)ひて、さながら心にあらず。人に戯(たはぶ)れ、物に争ひ、一度は恨み、一度は喜ぶ。そのこと、定れることなし。分別みだりに起りて、得失やむ時なし。惑ひの上に酔(ゑ)へり、酔(ゑ)ひの中に夢をなす。走りて急がはしく、呆(ほ)れて忘れたること、人、みなかくのごとし。
いまだまことの道を知らずとも、縁を離れて、身を閑(しづ)かにし、事にあづからずして、心をやすくせんこそ、しばらく楽しぶとも言ひつべけれ。
「生活(しやうくわつ)・人事(にんじ)・伎能(ぎのう)・学問等の諸縁をやめよ」とこそ、摩訶止観にも侍れ。
翻刻
つれづれわぶる人は。いかなる心ならん。/w1-57l
http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0001/he10_00934_0001_p0057.jpg
まぎるるかたなく。ただひとりあるの みこそよけれ。世にしたがへは心外の塵に うばはれてまどひやすく。人にまじは れば言葉よその聞に随ひて。さながら こころにあらず。人に戯れ物にあら そひ一度はうらみ。一度はよろこぶ。其事 定れる事なし。分別みだりにおこり て。得失やむ時なし。まどひの上に酔り。 酔の中に夢をなす。走りていそが はしく。ほれてわすれたる事。人皆/w1-58r
かくのごとし。いまだ誠の道をしらず とも。縁をはなれて身を閑にし。こと にあづからずして心をやすくせんこそ。 暫たのしふともいひつべけれ。生活 人事伎能学問等の諸縁をやめよと こそ。摩訶止観にも侍れ/w1-58l
http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0001/he10_00934_0001_p0058.jpg
text/turezure/k_tsurezure075.txt.txt · 最終更新: 2018/07/18 23:17 by 127.0.0.1