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text:towazu:towazu4-08 [2019/09/23 20:58] – 作成 Satoshi Nakagawatext:towazu:towazu4-08 [2019/09/23 22:12] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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-かくて荏柄(えがら)((荏柄天神社。底本「えかう」。))・二階堂((永福寺))・大御堂(おほみだう)((勝長寿院))などいふ所ども拝みつつ、大蔵の谷(やつ)といふ所に、小町殿((女房名。))とて将軍((「将軍」は底本「ゐくん」。))に候ふは、土御門の定実((土御門定実。作者又従兄弟。))のゆかりなれば、文つかはしたりしかば、「いと思ひ寄らず」と言ひつつ、「わがもとへ」とてありしかども、なかなかむつかしくて、近きほどに宿を取りて侍りしかば、「頼りなくや」など、さまざまとぶらひおこせたるに、道のほどの苦しさも、しばしいたはるほどに、善光寺の先達(せんだち)に頼みたる人、卯月の末つかたより大事に病み出だして、前後を知らず。あさましとも言ふばかりなきほどに、少しおこたるにやと見ゆるほどに、わが身、またうち臥しぬ。+かくて荏柄(えがら)((荏柄天神社。底本「えかう」。))・二階堂((永福寺))・大御堂(おほみだう)((勝長寿院))などいふ所ども拝みつつ、大蔵の谷(やつ)といふ所に、小町殿((女房名。))とて将軍((惟康親王。「将軍」は底本「ゐくん」。))に候ふは、土御門の定実((土御門定実。作者又従兄弟。))のゆかりなれば、文つかはしたりしかば、「いと思ひ寄らず」と言ひつつ、「わがもとへ」とてありしかども、なかなかむつかしくて、近きほどに宿を取りて侍りしかば、「頼りなくや」など、さまざまとぶらひおこせたるに、道のほどの苦しさも、しばしいたはるほどに、善光寺の先達(せんだち)に頼みたる人、卯月の末つかたより大事に病み出だして、前後を知らず。あさましとも言ふばかりなきほどに、少しおこたるにやと見ゆるほどに、わが身、またうち臥しぬ。
  
 二人になりぬれば、人も、「いかなることにか」と言へども、「ことさらなることにてはなし。ならはぬ旅の苦しさに、持病の起こりたるなり」とて、医師(くすし)などは申ししかども、今はといふほどなれば、心細さも言はん方なし。さほどなき病だにも、風の気、鼻垂りといへども、少しも煩はしく((「煩はしく」は底本「につらはしく」。))、二・三日にも過ぎぬれば、陰陽(おんやう)・医道の漏るるはなく、家に伝へたる宝、世に聞こえある名馬まで、霊社・霊仏に奉る。南嶺(なんれい)の橘、玄圃(げんぽ)の梨、わがためにとのみこそ騒がれしに、病の床(ゆか)に臥して、あまた日数は積もれども、神にも祈らず、仏にも申さず、何を食ひ、何を用ゐるべき沙汰にも及ばで、たたうち臥したるままにて明かし暮らすありさま、生(しやう)を変へたる心地すれども、命は限りあるものなれば、水無月のころよりは心地もおこたりぬれども、なほ物参り思ひ立つほどの心地はせで、ただよひ歩(あり)きて、月日むなしく過ぐしつつ、八月にもなりぬ。 二人になりぬれば、人も、「いかなることにか」と言へども、「ことさらなることにてはなし。ならはぬ旅の苦しさに、持病の起こりたるなり」とて、医師(くすし)などは申ししかども、今はといふほどなれば、心細さも言はん方なし。さほどなき病だにも、風の気、鼻垂りといへども、少しも煩はしく((「煩はしく」は底本「につらはしく」。))、二・三日にも過ぎぬれば、陰陽(おんやう)・医道の漏るるはなく、家に伝へたる宝、世に聞こえある名馬まで、霊社・霊仏に奉る。南嶺(なんれい)の橘、玄圃(げんぽ)の梨、わがためにとのみこそ騒がれしに、病の床(ゆか)に臥して、あまた日数は積もれども、神にも祈らず、仏にも申さず、何を食ひ、何を用ゐるべき沙汰にも及ばで、たたうち臥したるままにて明かし暮らすありさま、生(しやう)を変へたる心地すれども、命は限りあるものなれば、水無月のころよりは心地もおこたりぬれども、なほ物参り思ひ立つほどの心地はせで、ただよひ歩(あり)きて、月日むなしく過ぐしつつ、八月にもなりぬ。
text/towazu/towazu4-08.1569239900.txt.gz · 最終更新: by Satoshi Nakagawa