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text:towazu:towazu4-05

とはずがたり

巻4 5 伊豆の国三島の社に参りたれば・・・

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伊豆の国三島の社(やしろ)に参りたれば、奉幣(ほうへい)の儀式は熊野参りに違(たが)はず、長筵(ながむしろ)1)などしたるありさまも、いと神々しげなり。

故頼朝の大将2)し始められたりける浜の一万とかやとて、ゆゑある女房の、壺装束にて行き帰るが苦しげなるを見るにも、「わればかり物思ふ人にはあらじ3)。」とぞ思えし。

月は宵過ぐるほどに待たれて出づるころなれば、短夜(みじかよ)の空もかねてもの憂きに、神楽とて、少女子(おとめご)が舞の手づかひも、見馴れぬさまなり。千早(ちはや)とて、袙(あこめ)のやうなる物を着て、八少女舞(やをとめまひ)4)とて、三・四人立ちて入り違(ちが)ひて舞ふさまも、興ありておもしろければ、夜もすがら居明かして、鳥の音にも催されて出で侍りき。

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いつのくにみしまのやしろにまいりたれはほうへいのきしき
はくまのまいりにたかはすなかむしなとしたるありさまもい
とかうかうしけなりこよりともの大将しはしめられたり
けるはまの一万とかやとてゆへある女はうのつほしやうそ
くにて行かへるかくるしけなるをみるにも我はかり物
思ふ人にはあらしとそおほえし月はよひすくるほとに
またれていつるころなれはみしか夜の空もかねて物うき
に神楽とておとめこかまいのてつかひもみなれぬさまなり
ちはやとてあこめのやうなる物をきてはれなまいとて三四/s169l k4-7

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/169

人たちて入ちかひてまふさまもけうありておもしろけれは
よもすからいあかしてとりのねにもよほされていて侍き廿/s170r k4-8

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/170

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1)
「長筵」は底本「なかむし」。「長虫(蛇の意)」・「長橋(ながはし)」とする説もある。
2)
源頼朝
3)
『伊勢物語』27段「わればかり物思ふ人はまたもあらじと思へば水の下にもありけり」
4)
「八少女舞」は底本「はれなまい」。
text/towazu/towazu4-05.txt · 最終更新: 2019/09/21 16:41 by Satoshi Nakagawa