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text:towazu:towazu1-40 [2019/04/24 14:58] – 作成 Satoshi Nakagawatext:towazu:towazu1-40 [2019/04/24 15:11] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 更けぬれば、御前なる人も、みな寄り臥したる。御主(ぬし)((斎宮))も小几帳引き寄せて、御殿籠りたるなりけり。近く参りて、ことのやう奏すれば、御顔うち赤めて、いとものものたまはず、文も見るとしもなくて、うち置き給ひぬ。「何とか申すべきと」と申せば、「思ひよらぬ御言の葉は、何と申すべきかたもなくて」とばかりにて((「ばかりにて」は底本「はかりて」))、また寝給ひぬるも心やましければ、帰り参りて、このよしを申す。「ただ寝給ふらん所へ導け、導け」と責めさせ給ふもむつかしければ、御供に参らむことはやすくこそ、しるべして参る。甘(かん)の御衣(おんぞ)などはことごとしければ、御大口ばかりにて、忍びつつ入らせ給ふ。 更けぬれば、御前なる人も、みな寄り臥したる。御主(ぬし)((斎宮))も小几帳引き寄せて、御殿籠りたるなりけり。近く参りて、ことのやう奏すれば、御顔うち赤めて、いとものものたまはず、文も見るとしもなくて、うち置き給ひぬ。「何とか申すべきと」と申せば、「思ひよらぬ御言の葉は、何と申すべきかたもなくて」とばかりにて((「ばかりにて」は底本「はかりて」))、また寝給ひぬるも心やましければ、帰り参りて、このよしを申す。「ただ寝給ふらん所へ導け、導け」と責めさせ給ふもむつかしければ、御供に参らむことはやすくこそ、しるべして参る。甘(かん)の御衣(おんぞ)などはことごとしければ、御大口ばかりにて、忍びつつ入らせ給ふ。
  
-まづ先に参りて、御障子をやをら開けたれば、ありつるままにて、御殿籠りたる。御前なる人も寝入りぬるにや、音する人もなく、小さらかに這ひ入らせ給ひぬる後、いかなる御ことどもかありけん。うち捨て参らすべきならねば、御上臥(うへぶし)したる人のそばに寝(ぬ)れば、いまぞおどろきて、「こは誰(た)そ」と言ふ。御人少ななるも御いたはしくて、御宿直(とのゐ」し侍る」といらへば、まことと((「まことと」は底本「まこと」。))思ひて物語するも、「用意なきことや」とわびしければ、「眠(ね)たしや。更け侍りぬ」と言ひて、そら眠(ねぶ)りして居たれば、御几帳の内も遠からぬに、いたく御心も尽さず、はやうちとけ給ひにけりと覚ゆるぞ、あまりに念なかりし。+まづ先に参りて、御障子をやをら開けたれば、ありつるままにて、御殿籠りたる。御前なる人も寝入りぬるにや、音する人もなく、小さらかに這ひ入らせ給ひぬる後、いかなる御ことどもかありけん。うち捨て参らすべきならねば、御上臥(うへぶし)したる人のそばに寝(ぬ)れば、いまぞおどろきて、「こは誰(た)そ」と言ふ。御人少ななるも御いたはしくて、御宿直(とのゐ」し侍る」といらへば、まことと((「まことと」は底本「まこと」。))思ひて物語するも、「用意なきことや」とわびしければ、「眠(ね)たしや。更け侍りぬ」と言ひて、そら眠(ねぶ)りして居たれば、御几帳の内も遠からぬに、いたく御心も尽さず、はやうちとけ給ひにけりと覚ゆるぞ、あまりに念なかりし。
  
 「心強くて明かし給はば、いかにおもしろからむ」と思えしに、明過ぎぬ前(さき)に帰り入らせ給ひて、「桜は匂ひは美しけれども、枝もろく、折りやすき花にてある」など仰せありしぞ、「さればよ」と思え侍りし。 「心強くて明かし給はば、いかにおもしろからむ」と思えしに、明過ぎぬ前(さき)に帰り入らせ給ひて、「桜は匂ひは美しけれども、枝もろく、折りやすき花にてある」など仰せありしぞ、「さればよ」と思え侍りし。
text/towazu/towazu1-40.1556085517.txt.gz · 最終更新: 2019/04/24 14:58 by Satoshi Nakagawa