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text:shaseki:ko_shaseki03a-02 [2018/09/12 23:46] – 作成 Satoshi Nakagawatext:shaseki:ko_shaseki03a-02 [2018/09/12 23:47] (現在) Satoshi Nakagawa
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 重々の訴陳(そちん)の後、領家の方に肝心の道理を申し立てたる時、地頭、手をはたと打ちて、泰時の方へ向ひて、「あら、負けや」と言ふ時、座席の人ども、「は」と笑ひける時、泰時、うちうなづきて、「いみじく負け給ひぬるものかな。泰時、御代官として、年久しく成敗つかまつるに、いまだかくのごとくのこと承らず。『あはれ、負けぬる』と聞こゆる人も、かなはぬものゆゑ、一言葉(ひとことば)も陳じ申す習ひなるに、われと負け給へること、めづらしく侍り。前の重々の訴陳は、一往さもと聞こゆ。今、領家の御代官の申さるるところ、肝心と聞こゆるにしたがひて、陳状なく負け給へること、かへすがへすいみじく聞こえ侍り。正直の人にておはしけり」とて、うち涙ぐみて、感じ申されければ、笑ひつる人々、みな苦(にが)りてぞ見えける。 重々の訴陳(そちん)の後、領家の方に肝心の道理を申し立てたる時、地頭、手をはたと打ちて、泰時の方へ向ひて、「あら、負けや」と言ふ時、座席の人ども、「は」と笑ひける時、泰時、うちうなづきて、「いみじく負け給ひぬるものかな。泰時、御代官として、年久しく成敗つかまつるに、いまだかくのごとくのこと承らず。『あはれ、負けぬる』と聞こゆる人も、かなはぬものゆゑ、一言葉(ひとことば)も陳じ申す習ひなるに、われと負け給へること、めづらしく侍り。前の重々の訴陳は、一往さもと聞こゆ。今、領家の御代官の申さるるところ、肝心と聞こゆるにしたがひて、陳状なく負け給へること、かへすがへすいみじく聞こえ侍り。正直の人にておはしけり」とて、うち涙ぐみて、感じ申されければ、笑ひつる人々、みな苦(にが)りてぞ見えける。
  
-さて、領家の代官も、「日ごろは、ことの子細、聞きほどき給はざりけり。ことさらの僻事(ひがごと)なかりけるにこそ」とて、負けやうを感じて、六年の未進の物、三年は免してけり。わりなき情けなり。これこそ、「負けたればこそ、勝ちたれ(([[ko_shaseki03a-01|前話]]参照]]))」の風情にて侍れ。+さて、領家の代官も、「日ごろは、ことの子細、聞きほどき給はざりけり。ことさらの僻事(ひがごと)なかりけるにこそ」とて、負けやうを感じて、六年の未進の物、三年は免してけり。わりなき情けなり。これこそ、「負けたればこそ、勝ちたれ(([[ko_shaseki03a-01|前話]]参照))」の風情にて侍れ。
  
 されば、人は道理をわきまへ、正直なるべき者なり。世間出世、ともに正直なるは徳あり。過(とが)を犯すの者も、道理を知り、正直に過を述べて、恐れ、慎むは免さる。是非をしらず僻(ひが)み、過を隠してかたましきは、いよいよ沈むことなり。心地観経((大乗本生心地観経))にいはく、「若覆罪者、罪郎増長、発露懺悔、罪即消滅(もし罪を覆ふ者は、罪すなはち増長し、懺悔(さんげ)を発露すれば、罪すなはち消滅す)」と言へり。 されば、人は道理をわきまへ、正直なるべき者なり。世間出世、ともに正直なるは徳あり。過(とが)を犯すの者も、道理を知り、正直に過を述べて、恐れ、慎むは免さる。是非をしらず僻(ひが)み、過を隠してかたましきは、いよいよ沈むことなり。心地観経((大乗本生心地観経))にいはく、「若覆罪者、罪郎増長、発露懺悔、罪即消滅(もし罪を覆ふ者は、罪すなはち増長し、懺悔(さんげ)を発露すれば、罪すなはち消滅す)」と言へり。
text/shaseki/ko_shaseki03a-02.1536763597.txt.gz · 最終更新: 2018/09/12 23:46 by Satoshi Nakagawa