text:sanboe:ka_sanboe2-07
中巻 7 義覚法師
校訂本文
義覚法師(ぎかくほふし)といひける僧は、もと百済国(はくさいこく)の人なり。かの国の破れし時、わが朝、後の岡本の宮の天(あめ)1)の下治め給ひし帝2)の代に渡り来たれりしなり。難波の百済寺(くだらでら)に住む。身のたけ七尺。弘(ひろ)く仏の教へを学びて、般若心経を誦(ず)す。
同じ寺の住僧恵義(ゑぎ)といふ、夜中に一人出でて、義覚が家の内を見入れば、明きらかなる光照り輝けり。寄り至りて、窓の上より至りて見れば、義覚法師の起きゐて経を誦するに、口より出づる光なりけり。
恵義、驚き敬ひて、明くる朝(あした)に人々に告げて、奇(あや)しび尊びて、義覚聖、みづから弟子に語りて云はく、「われ一夜に心経を誦すること百反(ひやくぺん)ばかりなり。後にみづから目をあけて、家の中(うち)を見れば、四面(しめん)の壁通りて、庭の内あらはに見ゆ。われもまた怪しびて、家を出でて寺の内に巡り行きて、帰り来たりて室(むろ)を見れば、壁も戸(とぼそ)もみな閉ぢたり。後また心経を誦すれば、開け徹(とほ)ること前(さき)のごとし。これは般若心経の不思議なり」と言へり。
霊異記3)に見えたり。
翻刻
義覚法師トイヒケル僧ハモト百済国ノ人也彼国ノヤフレシ 時我朝後ノ岡本ノ宮ノ雨ノシタオサメ給シ帝ノ代ニ渡キ タレリシ也難波ノクタラ寺ニスム身ノタケ七尺弘ク仏ノ/n2-30r・e2-27r
ヲシヘヲマナヒテ般若心経ヲ誦ス同寺ノ住僧恵義トイフ 夜中ニ一人出テ義覚カ家ノ内ヲミ入レハあきらかなる光 テリカカヤケリヨリイタリテマトノ上ヨリイタリテ見レハ義覚法 師ノオキヰテ経ヲ誦スルニ口ヨリ出ル光ナリケリ恵義オトロ キ敬テアクル朝ニ人々ニ告テアヤシヒタウトヒテ義覚ヒシリ ミツカラ弟子ニカタリテ云我一夜ニ心経ヲ誦スル事百反許也 後ニ身ツカラ目ヲアケテ家ノ中ヲ見レハ四面ノ壁通テ庭ノ ウチアラハニミユ我モ又アヤシヒテ家ヲイテテ寺ノウチニメク/n2-30l・e2-27l
https://dl.ndl.go.jp/pid/1145963/1/30
リユキ天カヘリ来テ室ヲミレハカヘモトホソモミナトチタリ後又 心経ヲ誦スレハアケ徹事サキノコトシコレハ般若心経ノ不思議也 トイヘリ霊異記ニミヘタリ/n2-31r・e2-28r
text/sanboe/ka_sanboe2-07.txt · 最終更新: 2024/09/08 21:11 by Satoshi Nakagawa