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text:sanboe:ka_sanboe0-00 [2024/04/11 12:39] – 作成 Satoshi Nakagawatext:sanboe:ka_sanboe0-00 [2024/04/11 12:43] (現在) Satoshi Nakagawa
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 貴き家より生まれ、重き位に備はりたしかど、蓮の花に宿らむは、芳しき契りなれな、怱(いそ)ぎ法の種を植ゑ、月の輪に入らむは高き思ひなれば、強ひて戒(いむこと)の光を受けてき。今を見て古(いにしへ)を思へば、時は異(こと)にて事(こと)は同じ。玉の簾(すだれ)、錦の帳(とばり)は本の御住まひながら、花の露、香の煙は今の御怱(いそ)ぎに成りにたり。 貴き家より生まれ、重き位に備はりたしかど、蓮の花に宿らむは、芳しき契りなれな、怱(いそ)ぎ法の種を植ゑ、月の輪に入らむは高き思ひなれば、強ひて戒(いむこと)の光を受けてき。今を見て古(いにしへ)を思へば、時は異(こと)にて事(こと)は同じ。玉の簾(すだれ)、錦の帳(とばり)は本の御住まひながら、花の露、香の煙は今の御怱(いそ)ぎに成りにたり。
  
-しかれども、なほ春の日遅く晩(く)る。林に鳴く鶯の音しづかに、秋の夜明し難し。壁にそむけたる灯(ともしび)の景(かげ)、かすかなる折あるに、碁はこれ日を送る戯れなれど、勝ち負けの営みあぢきなし((底本「営ミ太身無端し」に「阿知木無シ」と傍書。さらに「阿知木」に「アチキ」と傍書))。琴は復た夜を通す友なれど、音にめづる思ひ発(お)こりぬべし。また物語と云ひて、女の御心をやる物なり。おほあらきのもりの草よりも繁く、荒磯海(ありそみ)((底本「アリソミ」に「有ソ海」と傍書。))の浜の真砂(まさご)よりも多かれど、木・草・山・川・鳥・獣・魚・虫など名付けたるは、もの言はぬ物にものを言はせ、情けなき物に情けを付けたるは、ただ海(あま)の浮木(うきぎ)の浮かべたることをのみいひながし、沢の真菰(まこも)((「真菰」は底本「末己毛」に「間薦」と傍書。))の誠(まこと)となる詞(ことば)をば結び置かずして、伊加乎女(いがをめ)((底本「伊賀ノ太乎女イ」と異本注記。))・土佐のおとど((底本「おとど」に「大殿」と傍書。))・いまめきの中将((底本「いまめき」に「今様ノイ」と異本注記))・なかゐの侍従((底本「なかゐ」は「奈加為」に「中居」と傍書。以上、散逸物語の題名と思われる。))など云へるは、男女などに寄せつつ、花や蝶やといへれば((底本「ば」に「トイ」と異本注記。))、罪の根、言葉((「言葉」は底本表記「事葉」))の林につゆの御心もとどまらじ。「何をもつてか、貴き御心ばへをもはげまし、静かなる御心をもなぐさむべき」と思ふに、昔、龍樹菩薩(りうじゆぼさつ)の禅陀迦王(ぜんだかわう)を教へたる偈(げ)に云はく、「もし、絵にかけるを見ても、人の言はむを聞きても、あるいは経と書(ふみ)とに随ひて、みづから悟り念(おも)へ」と云へり。+しかれども、なほ春の日遅く晩(く)る。林に鳴く鶯の音しづかに、秋の夜明し難し。壁にそむけたる灯(ともしび)の景(かげ)、かすかなる折あるに、碁はこれ日を送る戯れなれど、勝ち負けの営みあぢきなし((底本「営ミ太身無端し」に「阿知木無シ」と傍書。さらに「阿知木」に「アチキ」と傍書))。琴は復た夜を通す友なれど、音にめづる思ひ発(お)こりぬべし。また物語と云ひて、女の御心をやる物なり。おほあらきのもりの草よりも繁く、荒磯海(ありそみ)((底本「アリソミ」に「有ソ海」と傍書。))の浜の真砂(まさご)よりも多かれど、木・草・山・川・鳥・獣・魚・虫など名付けたるは、もの言はぬ物にものを言はせ、情けなき物に情けを付けたるは、ただ海(あま)の浮木(うきぎ)の浮かべたることをのみいひながし、沢の真菰(まこも)((「真菰」は底本「末己毛」に「間薦」と傍書。))の誠(まこと)となる詞(ことば)をば結び置かずして、伊加乎女(いがをめ)((底本「伊賀ノ太乎女イ」と異本注記。))土佐のおとど((底本「おとど」に「大殿」と傍書。))いまめきの中将((底本「いまめき」に「今様ノイ」と異本注記))なかゐの侍従((底本「なかゐ」は「奈加為」に「中居」と傍書。以上、散逸物語の題名と思われる。))など云へるは、男女などに寄せつつ、花や蝶やといへれば((底本「ば」に「トイ」と異本注記。))、罪の根、言葉((「言葉」は底本表記「事葉」))の林につゆの御心もとどまらじ。「何をもつてか、貴き御心ばへをもはげまし、静かなる御心をもなぐさむべき」と思ふに、昔、龍樹菩薩(りうじゆぼさつ)の禅陀迦王(ぜんだかわう)を教へたる偈(げ)に云はく、「もし、絵にかけるを見ても、人の言はむを聞きても、あるいは経と書(ふみ)とに随ひて、みづから悟り念(おも)へ」と云へり。
  
 これによりて、あまたの貴きことを絵にかかせ、また経と文(ふみ)との文(もん)を加へ副へて、奉らしむ。その名を三宝と云ふことは、伝へいはむ者に、三帰(さんき)の縁を結ばしむとなり。その数を三巻に分かてることは、三時の暇(ひま)に当てたるなり。初めの巻は、昔の仏の行ひ給へることを明かす。種々(くさぐさ)の経より出でたり。中の巻は、中ごろ、法のここに広まることを書す。家々の文より撰べり。後の巻は、今の僧をもつて勤むる事を、正月より十二月に至るまでの所々(ところどころ)の態(わざ)を尋ねたり。その初めに、各(おのおの)の趣を宣(の)べ、その奥に、また徳を讃めたり。惣(すべて)て((底本「惣て」に「凡そ」と傍注。))仏法僧を顕(あらは)せば、初めも善(よ)く、中(なか)も善く、後も善し。在りとし在らむ所の所には、まさに三宝いまして守り給ふべし。 これによりて、あまたの貴きことを絵にかかせ、また経と文(ふみ)との文(もん)を加へ副へて、奉らしむ。その名を三宝と云ふことは、伝へいはむ者に、三帰(さんき)の縁を結ばしむとなり。その数を三巻に分かてることは、三時の暇(ひま)に当てたるなり。初めの巻は、昔の仏の行ひ給へることを明かす。種々(くさぐさ)の経より出でたり。中の巻は、中ごろ、法のここに広まることを書す。家々の文より撰べり。後の巻は、今の僧をもつて勤むる事を、正月より十二月に至るまでの所々(ところどころ)の態(わざ)を尋ねたり。その初めに、各(おのおの)の趣を宣(の)べ、その奥に、また徳を讃めたり。惣(すべて)て((底本「惣て」に「凡そ」と傍注。))仏法僧を顕(あらは)せば、初めも善(よ)く、中(なか)も善く、後も善し。在りとし在らむ所の所には、まさに三宝いまして守り給ふべし。
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   イハヌ物ニ物ヲイハセナサケナキ物ニナサケヲ付タルハ只海アマノ   イハヌ物ニ物ヲイハセナサケナキ物ニナサケヲ付タルハ只海アマノ
   浮木(ウキキ)ノ浮ヘタル事ヲノミイヒナカシ沢ノ末己毛(間薦)ノ誠トナル   浮木(ウキキ)ノ浮ヘタル事ヲノミイヒナカシ沢ノ末己毛(間薦)ノ誠トナル
-  詞ヲハムスヒオカス(不結置ス)シテ伊加乎女(伊賀ノ太乎女イ)土佐ノオトト(大殿)イマメキノ(今様ノイ)中将+  詞ヲハムスヒオカス(不結置ス)シテ伊加乎女(伊賀ノ太乎女イ)土佐ノオトト(大殿)イマメキノ(今様ノイ)中将
   奈加為(中居)ノ侍従ナト云ヘルハ男女ナトニ寄ツツ花ヤ蝶ヤト   奈加為(中居)ノ侍従ナト云ヘルハ男女ナトニ寄ツツ花ヤ蝶ヤト
   イヘレハ(トイ)罪ノ根事葉ノ林ニ露ノ御心モトトマラシナニヲ   イヘレハ(トイ)罪ノ根事葉ノ林ニ露ノ御心モトトマラシナニヲ
text/sanboe/ka_sanboe0-00.txt · 最終更新: 2024/04/11 12:43 by Satoshi Nakagawa