text:mumyosho:u_mumyosho035
目次
無名抄
第35話 艶書に古歌書く事
校訂本文
艶書に古歌かく事
ある人、女のもとより文(ふみ)を得たり。その文に歌二首あり。「これ返しして給はせよ」と誂(あつら)へ侍るを見れば、二首ながら古今の恋の歌なり。返しをすべきにあらず。「いかがせまし」と思ひめぐらして、その言はまほしき心にかなへる古歌(ふるうた)二首をなん教へて書かせて侍りし。
この事を、ある古き人に語り侍りしかば、「いみじきことなり。昔、色好みの、わざとも好みてしけるわざなり。知らぬを推し量らひたること、往事にかなへる。優(いう)なることなり」となむ、感じ侍りし。
翻刻
艶書ニ古哥カク事 ある人女のもとよりふみをゑたりその文に哥 二首ありこれかへしして給はせよとあつらへ侍を みれは二首なから古今の恋のうたなりかへし/e31r
をすへきにあらすいかかせましとおもひめくらして そのいはまほしき心にかなへるふる哥二首をなん をしへてかかせて侍しこの事をあるふるき 人にかたり侍しかはいみしきことなりむかしいろ このみのわさともこのみてしけるわさなりしら ぬををしはからひたること往事にかなへるいふ なることなりとなむ感し侍し/e31l
text/mumyosho/u_mumyosho035.txt · 最終更新: 2014/09/20 21:32 by Satoshi Nakagawa