text:kohon:kohon051
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text:kohon:kohon051 [2016/01/29 14:57] – Satoshi Nakagawa | text:kohon:kohon051 [2018/05/27 22:38] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
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「いかがせんずる。いづくにか隠れんずる」と、若君のたまへば、童の申すやう、「昼見候ひつれば、神泉(しせん)の北の方の御門、開きて候ひつ。それに入りて、立たせおはしませ」と言へば、馳せ向かひて、北の方の門に入り給ふ。柱のもとに、かがまりゐぬ。 | 「いかがせんずる。いづくにか隠れんずる」と、若君のたまへば、童の申すやう、「昼見候ひつれば、神泉(しせん)の北の方の御門、開きて候ひつ。それに入りて、立たせおはしませ」と言へば、馳せ向かひて、北の方の門に入り給ふ。柱のもとに、かがまりゐぬ。 | ||
- | 火灯して過ぐるものどもを見給へば、手三つ付きて、足一つ付きたるものあり。目一付きたるものあり。「早く、鬼なりけり」と思ふに、ものも思えずなりぬ。 | + | 火灯して過ぐるものどもを見給へば、手三つ付きて、足一つ付きたるものあり。目一つ付きたるものあり。「早く、鬼なりけり」と思ふに、ものも思えずなりぬ。 |
- | うつぶしてあるに、この鬼ども、「ここに人気配こそすれ。搦め候はん」と言へば、もの一人、走りかかりて来なり。今は若君、「限りぞ」と思ふに、近くも寄らで走り返りぬ。「など搦めぬぞ」と言ふなれば、「え搦め候はぬなり」と言ふ。「など搦めざるべきぞ。たしかに搦めよ」とて、また異鬼(ことおに)をおこす。同じこと、近くも寄らず、走り返りて往ぬ。「いかにぞ。搦めたりや」「え搦め候はず」と言へば、「いとあやしきこと申す。いで、をのれ搦めん」と言ひて、かくをきつる物、走り来て、先々よりは近く来て、むげに手かけつべく来ぬ。「今は限り」と思ひてある間に、また走り返りて往ぬ。 | + | うつぶしてあるに、この鬼ども、「ここに人気配こそすれ。搦め候はん」と言へば、もの一人、走りかかりて来なり。今は若君、「限りぞ」と思ふに、近くも寄らで走り返りぬ。「など搦めぬぞ」と言ふなれば、「え搦め候はぬなり」と言ふ。「など搦めざるべきぞ。たしかに搦めよ」とて、また異鬼(ことおに)をおこす。同じこと、近くも寄らず、走り返りて往ぬ。「いかにぞ。搦めたりや」「え搦め候はず」と言へば、「いとあやしきこと申す。いで、おのれ搦めん」と言ひて、かくをきつる物、走り来て、先々よりは近く来て、むげに手かけつべく来ぬ。「今は限り」と思ひてある間に、また走り返りて往ぬ。 |
「いかにぞ」と問へば、「まことにえ搦め候ふまじきなりけり」と言ふ。「いかなれば」と人だちたるもの言ふなり。「尊勝陀羅尼のおはしますなり」と言ふ声を聞きて、多く灯したる火、一度(ひとたび)にうち消つ。東西に走り散る音して失せぬ。中々その後、頭の毛太りて、恐しきこと限りなし。 | 「いかにぞ」と問へば、「まことにえ搦め候ふまじきなりけり」と言ふ。「いかなれば」と人だちたるもの言ふなり。「尊勝陀羅尼のおはしますなり」と言ふ声を聞きて、多く灯したる火、一度(ひとたび)にうち消つ。東西に走り散る音して失せぬ。中々その後、頭の毛太りて、恐しきこと限りなし。 |
text/kohon/kohon051.1454047048.txt.gz · 最終更新: 2016/01/29 14:57 by Satoshi Nakagawa