text:kohon:kohon027
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text:kohon:kohon027 [2014/09/15 21:48] – [第27話 河原院の事] Satoshi Nakagawa | text:kohon:kohon027 [2016/01/21 13:11] (現在) – Satoshi Nakagawa | ||
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===== 校訂本文 ===== | ===== 校訂本文 ===== | ||
- | 今は昔、河原院は融の左大臣の作りたりける家なり。陸奥(みちのく)の塩竃(しほがま)のかたを作りて、潮(うしほ)の水を汲みて湛えたり。さまざま、をかしきことを尽くして住み給ひける。 | + | 今は昔、河原院は融の左大臣((源融))の作りたりける家なり。陸奥(みちのく)の塩竃(しほがま)のかたを作りて、潮(うしほ)の水を汲みて湛へたり。さまざま、をかしきことを尽くして住み給ひける。 |
- | 大臣(おとど)失せて後、宇多の院には奉りたるなり。醍醐御門は御子にておはしましければ、たびたび行幸ありけり。 | + | 大臣(おとど)失せて後、宇多の院((宇多天皇))には奉りたるなり。醍醐御門((醍醐天皇))は御子にておはしましければ、たびたび行幸ありけり。 |
- | まだ院の住ませ給ひけるをりに、夜中ばかりに、西の対(たい)の塗籠(ぬりこめ)を開けて、そよめきて人の参るやうにおぼされければ、見させ給へば、昼(ひ)の装束、うるはしくしたる人の、太刀はき、笏取りて、二間ばかり退きて、かしこまりてゐたり。「あれは誰そ」と、問はせ給へば、「ここの主(ぬし)に候ふ翁なり」と申す。「融(とほる)の大臣か」と問はせ給へば、「しかに候ふ」と申す。「そは何ぞ」と仰せらるれば、「家なれば住み候ふに、おはしますが、かたじけなく、所狭く候ふなり。いかがつかまつるべからん」と申せば、「それはいと異様(ことやう)の事なり。故大臣の子孫の、我に取らせたれはば住むにこそあれ、我、押し取りてゐたらばこそあらめ、礼も知らず、いかにかくは恨むむるぞ」と、たかやかに仰せられければ、かい消つやうに失せぬ。 | + | まだ院の住ませ給ひけるをりに、夜中ばかりに、西の対(たい)の塗籠(ぬりこめ)を開けて、そよめきて人の参るやうに思されければ、見させ給へば、昼(ひ)の装束、うるはしくしたる人の、太刀はき、笏取りて、二間ばかり退きて、かしこまりて居たり。「あれは誰そ」と、問はせ給へば、「ここの主(ぬし)に候ふ翁なり」と申す。「融(とほる)の大臣か」と問はせ給へば、「しかに候ふ」と申す。「そは何ぞ」と仰せらるれば、「家なれば住み候ふに、おはしますが、かたじけなく、所狭く候ふなり。いかがつかまつるべからん」と申せば、「それはいと異様(ことやう)のことなり。故大臣の子孫の、我に取らせたれはば住むにこそあれ、我、押し取りて居たらばこそあらめ、礼も知らず、いかにかくは恨むるぞ」と、高やかに仰せられければ、かい消つやうに失せぬ。 |
- | そのをりの人、「なほ、御門はかたことにおはします物なり。ただ人はその大臣に会ひて、さやうにすくよかに言ひてむや」とぞいひける。 | + | そのをりの人、「なほ、御門はかたことにおはしますものなり。ただ人はその大臣に会ひて、さやうにすくよかに言ひてむや」とぞ言ひける。 |
- | かくて院失せさせ給て後、住む人も無くて荒れゆきけるを、貫之、土佐より上りて参りて見けるに、あはれにおぼえければ、ひとりごちける | + | かくて、院失せさせ給ひて後、住む人も無くて荒れゆきけるを、貫之((紀貫之))、土佐より上りて参りて見けるに、あはれに思えければ、ひとりごちける |
君なくて煙絶えにし塩竈の浦さびしくも見えわたるかな | 君なくて煙絶えにし塩竈の浦さびしくも見えわたるかな | ||
- | その後、この院を寺になして、安法君(あほうきみ)といふ人ぞ住みける。冬の夜、月明かかりけるに、眺めて詠める | + | その後、この院を寺になして、安法君(あほうきみ)といふ人ぞ住みける。冬の夜、月明かかりけるに、ながめて詠める、 |
- | 天の原空さへ冴えやわたるらん氷と見ゆる冬の夜の月 | + | 天の原空さへ冴えやわたるらん氷と見ゆる冬の夜の月 |
- | 昔の松の木の、対の西面に生ひたるを、そのころ、歌詠みども集まりて、安法君の房にて詠みける。古曽部(こそべ)の入道 | + | 昔の松の木の、対の西面に生ひたるを、そのころ、歌詠みども集まりて、安法君の房にて詠みける。古曽部(こそべ)の入道((能因法師)) |
年経れば河原に松は生ひにけり子の日しつへき寝屋の上かな | 年経れば河原に松は生ひにけり子の日しつへき寝屋の上かな | ||
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(里人の汲むだに今はなかるべし板井の清水水草ゐにけり)((カッコ内は傍書を採用した場合の本文。添付画像参照。)) | (里人の汲むだに今はなかるべし板井の清水水草ゐにけり)((カッコ内は傍書を採用した場合の本文。添付画像参照。)) | ||
- | 道済が歌 | + | 道済((源道済))が歌 |
行く末のしるしばかりに残るべき松さへいたくおひにけるかな | 行く末のしるしばかりに残るべき松さへいたくおひにけるかな |
text/kohon/kohon027.txt · 最終更新: 2016/01/21 13:11 by Satoshi Nakagawa