text:kara:m_kara019
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text:kara:m_kara019 [2014/11/30 14:30] – 作成 Satoshi Nakagawa | text:kara:m_kara019 [2014/12/31 21:35] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
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夫、恋ひ悲しめどもいふかひなくて、次の年にもなりぬるに、この人の才覚、世に優れたることを御門聞かせ給ひて、その国の守になされぬ。初めて国に下りける有様、心言葉も及ばずめでたかりけり。かかれども、なほありし妻のことを心にかけて、一国(ひとくに)のうちを尋ね求めさすれど、似たる人なくて明かし暮らす。 | 夫、恋ひ悲しめどもいふかひなくて、次の年にもなりぬるに、この人の才覚、世に優れたることを御門聞かせ給ひて、その国の守になされぬ。初めて国に下りける有様、心言葉も及ばずめでたかりけり。かかれども、なほありし妻のことを心にかけて、一国(ひとくに)のうちを尋ね求めさすれど、似たる人なくて明かし暮らす。 | ||
- | 園(その)に出でて狩りし遊びけるとき、こともなのめならず、あやしく侘しげなる賤の女、か筐(かたみ)といふ物を肘にかけて、菜を摘みて((底本「猶つみて」。尊経閣文庫本「なをつみて」。底本に従えば「なほ積みて」となるが、菜摘みに男女の出会いの意味があるため、「菜を摘みて」と解する。))ゐざり歩くを、「ゆゆしげなる者の姿かな」と見るほどに、我が昔のともに見なしてけり。 | + | 園(その)に出でて狩りし遊びけるとき、こともなのめならず、あやしく侘しげなる賤の女が、筐(かたみ)といふ物を肘にかけて、菜を摘みて((底本「猶つみて」。尊経閣文庫本「なをつみて」。底本に従えば「なほ積みて」となるが、菜摘みに男女の出会いの意味があるため、「菜を摘みて」と解する。))ゐざり歩くを、「ゆゆしげなる者の姿かな」と見るほどに、我が昔のともに見なしてけり。 |
なほ、「僻目(ひがめ)にや」と目をとめて見けるに、いかにも違ふ所なかりければ、人知れず悲しく思えて、暮るるや遅きと呼び取りてけり。女、「我過つこともなきに、いかなることに当りなんずるにか」と、恐れ惑ひけれど、ありし昔のことなどを細やかに語らひければ、女、あさましく思えて、この夫をうち見るより、いかが思ひけん、いたく悩み煩ひて、暁方に絶え入りにけり。 | なほ、「僻目(ひがめ)にや」と目をとめて見けるに、いかにも違ふ所なかりければ、人知れず悲しく思えて、暮るるや遅きと呼び取りてけり。女、「我過つこともなきに、いかなることに当りなんずるにか」と、恐れ惑ひけれど、ありし昔のことなどを細やかに語らひければ、女、あさましく思えて、この夫をうち見るより、いかが思ひけん、いたく悩み煩ひて、暁方に絶え入りにけり。 | ||
- | もろともに錦を着てや帰らまし憂きに堪えたる心なりせば | + | もろともに錦を着てや帰らまし憂きに堪へたる心なりせば |
心短かきは、何事につけても恨みを残さず((底本「のみさす」で「み」に「こ歟」と傍書。尊経閣文庫本「のこさす」。傍書及び尊経閣文庫本に従う。))といふことなし。錦を着て故郷((底本「古郷」))に帰るといふ。この人のことなり。 | 心短かきは、何事につけても恨みを残さず((底本「のみさす」で「み」に「こ歟」と傍書。尊経閣文庫本「のこさす」。傍書及び尊経閣文庫本に従う。))といふことなし。錦を着て故郷((底本「古郷」))に帰るといふ。この人のことなり。 |
text/kara/m_kara019.txt · 最終更新: 2014/12/31 21:35 by Satoshi Nakagawa