text:kankyo:s_kankyo030
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| 昔、それがしの僧都とて、尊き人、ある宮腹の女房に心ざしを移すことありけり。思ひかねてや侍りけん、うち口説き心の底を表はしければ、この女、とばかりためらひて、「なじかは、さまでに煩ひ給ふべき。里にまかり出でたらんに、必ず案内し侍らむ」と言ひけり。この人、ただおほかたの情けかとは思へども、さすが、また、昔には似ずなん思ひ居(を)りける。 | 昔、それがしの僧都とて、尊き人、ある宮腹の女房に心ざしを移すことありけり。思ひかねてや侍りけん、うち口説き心の底を表はしければ、この女、とばかりためらひて、「なじかは、さまでに煩ひ給ふべき。里にまかり出でたらんに、必ず案内し侍らむ」と言ひけり。この人、ただおほかたの情けかとは思へども、さすが、また、昔には似ずなん思ひ居(を)りける。 | ||
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| この人、つゆ物言ふことなし。さめざめと泣きて、「いみじき友に会ひ奉りて、心をなん改め侍りぬる」とて、車に急ぎ乗りて、返りにけりとなん。 | この人、つゆ物言ふことなし。さめざめと泣きて、「いみじき友に会ひ奉りて、心をなん改め侍りぬる」とて、車に急ぎ乗りて、返りにけりとなん。 | ||
| - | まことに、いみじく賢く侍りける女の心なりけり。今の世にも、さほどおどろおどろしきまでこそなけれども、捨つとなれば、人の身はあらぬものになり侍るにこそ。かの、水の面(おも)に影を見て、身をいたづらになし果てけん((『大和物語』155段))、さこそは廃れけん顔立ては悲しく侍りけめ。 | + | まことに、いみじく賢く侍りける女の心なりけり。今の世にも、さほどおどろおどろしきまでこそなけれども、捨つとなれば、人の身はあらぬものになり侍るにこそ。かの、水の面(おも)に影を見て、身をいたづらになし果てけん(([[: |
| 小野小町のことを書き記せる物を見れば、姿も着る物も、目を恥しめ侍るぞかし。まして、いたう顔も良からぬ人の、なりゆくにまかせて侍らんは、などてかは、この女房の偽りの姿に異なるべき。いはんや、息止まり、身冷えて、夜を重ね、日を送らん時をや。いかにいはんや、膚(はだへ)ひはれ、膿汁流れて、筋解け、肉(ししむら)解くる時をや。まことに心を静めて、のどかに思ふべし。 | 小野小町のことを書き記せる物を見れば、姿も着る物も、目を恥しめ侍るぞかし。まして、いたう顔も良からぬ人の、なりゆくにまかせて侍らんは、などてかは、この女房の偽りの姿に異なるべき。いはんや、息止まり、身冷えて、夜を重ね、日を送らん時をや。いかにいはんや、膚(はだへ)ひはれ、膿汁流れて、筋解け、肉(ししむら)解くる時をや。まことに心を静めて、のどかに思ふべし。 | ||
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text/kankyo/s_kankyo030.1530538074.txt.gz · 最終更新: by Satoshi Nakagawa
