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text:jojin:s_jojin2-17 [2017/03/05 12:57] – 作成 Satoshi Nakagawatext:jojin:s_jojin2-17 [2025/10/17 12:22] (現在) Satoshi Nakagawa
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-今昔物語集 +成尋阿闍梨母集 
-====== 巻9第42話 河南人婦依姑令食蚯蚓羹得現報語 第卌二 ======+====== 二巻(17) 正月になりてもこの月のつごもりぞかし岩倉より仁和寺へ渡りしは・・・ ======
  
-今昔、震旦に、隋の大業の代に、河南と云ふ所に有りける人の婦、其の姑を養ふに、強に姑を憎みけり。其の姑、二の目盲(しひ)たり。+===== 校訂本文 =====
  
-婦、強に姑を憎むに依て、蚯蚓を切て羹として、姑に食はしむ。姑、此れを食て、其の味を怪むで、密に其の臠(ししむら)を隠し置て、子の来れるに見しめて云く、「来れ、汝が妻の、我に食はしめたる物也」と。+[[s_jojin2-16|<<PREV]] [[index.html|『成尋阿闍梨母集』TOP]] [[s_jojin2-18|NEXT>>]]
  
-子、此れを見て、「此れ蚯蚓を羹にしたる」と知て、忽其の妻と別れ妻の本の家送らむに、未だ県に行着間に俄に雷震有り。+正月になり、「この月のつごもりぞかし岩倉より仁和寺(わじ)へ渡り」と思ひ出づるに、「三年なりける」、いとあはれなるに「おぼつなく隔てけ年かな」とぞ
  
-其の時に、具せる所の妻、忽に失ぬ。夫((底本頭注「夫ノ上諸本其ノトアリ」))、此れを怪思ふ程に、暫く有て、空より落る者()の有り。見ば、着たる所の衣は、妻の本着たる所の衣也。其の身、亦本の如也。其の頭替て、白き狗の頭り。其の詞、狗に異ず。+  あまたた別れにわがみせをや忘ら
  
-其の故を問ふに、妻、答て云く、「我れ、姑の為に、不孝にして、蚯蚓の羹を食はしめたるに依て、忽に天神の罰(み)し給ふ所也」。其の事を聞き畢て、妻を家に送つ。家の人、「奇異也」と思て、其の故を問ふ。夫、其の旨を答へけり+など独りごつ。
  
-後は出でて、物を乞て、世を過しけり。後に在所を知らず+正月七日ぞ、治部の君((源隆俊))の文持て来たりし僧の、「筑紫へまかで唐人の渡らむたより参りて、やがて御房のこなたおはせんに来む」と言ふに、文(ふみ)書き取らすれど行方(ゆくへ)も知らぬ心地てぞあるに、「まだ、京にありとこそ聞」とあり。
  
-を以てに、愚痴て、如く事有り現報し。「設(たと)現罰無しとふとも、天神皆憎み給ふ」とて、心をめて、しとなむ、語へたるとや。+心も得らねば、え取りも返さでぞ、あやしくおぼつかなくひ侍るに、二月十四日岩倉より、「唐より筑紫なる人のもとおこせ給へる文」とて、「殿ばらに持て来たる」とてあるを見侍れば、去年(こぞ)正月一日ありける。 
 + 
 +「三月十九日、筑紫肥前の国、松浦の郡(こほり)に、壁島といふ所離れて、同じ二十三日、みむしう((明州か。))のふくゐ山を見る。そこに、三日の風なくてあるに、はじめて羊の多かる。同じ二十九日ゑしう((越州か。))のしらのそく((思胡の浦か))に着く。たよりの風なくして、数の日をつめらる。四月十三日、杭州のふかく天に着く。二十九日、大都(たと)の守なんつい山((南屏山か。))のきようかけ寺((興教寺か))に、受け来たる八人の僧に、さいすは重く迎へらる。日本の朝(てう)の面目(めぼく)す。五月一日、筆ぞ((「筆ぞ」は底本「てそう」。「う」の衍字みて削除))賜はりて」 
 + 
 +人々あれど、ここには文なし。「筑紫にあり」と聞けど見えねばおぼつかなさは、慰むかたもなし。 
 + 
 +ただ、「本意(ほい)かなひて、心ゆき給へらんぞ。さは、かしこにおはし着きて見給ふべき人にこそ」と、少しことわらるれど、わが身のおぼつかなさ、ただ今日か明日かを待つ命なれば、この世のことも思ゆまじ。いとど、遥かなる別れなりけむ身のほど、あはれにぞ。 
 + 
 +年ごろも心にかけたる西の方をうちながめつつ、入り日の折りは拝むに、ともすれば曇り、雲の隠すに、 
 + 
 +  その方(かた)と慕ふ入り日を立ち隠す世にうき雲のいとはしきかな 
 + 
 +よろづにつけて、身のみ厭はしけれど、憂かりける命長さぞ思ひわびては、「さはありとならば、阿闍梨(あざり)おはして、この世に見え給へかし。それこそは長命(いのち)のかひなら」と思へど、心地の弱り行くさまは、あるべくも思え侍らず。 
 + 
 +  尽きもせず落つる涙はからくにのとわたる船におりはへもせじ 
 + 
 +とのみ、独りごちて、目は霧つつ過ぐす。 
 + 
 +[[s_jojin2-16|<<PREV]] [[index.html|『成尋阿闍梨母集』TOP]] [[s_jojin2-18|NEXT>>]] 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  そらめのみしつつすくす正月になりても/s60l 
 + 
 +https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100002873/60?ln=ja 
 + 
 +  この月のつこもりそかしいはくらより 
 +  にわしへわたりしはとおもひいつるに 
 +  三年になりにけるといとあはれなる 
 +  にもおほつかなくへたてけるとし 
 +  かなとそ 
 +    あまたたひとしもくれゆくわかれには 
 +    我みとせおやわすられぬらん 
 +  なとひとりこつ正月七日そちふの君のふみもて 
 +  きたりしそうのつくしへまかてたう人の 
 +  わたらんたよりにまいりてやかて御房のこなた 
 +  におはせんにこんといふにふみかきてとらす/s61r 
 + 
 +  れとゆくゑもしらぬ心地してそあるにまた京 
 +  にありとこそきけとあり心もえられねは 
 +  えとりもかへさてそあやしくおほつかなく思ひ 
 +  侍るに二月十四日いはくらよりたうよりつくし 
 +  なる人のもとにおこせ給へる文とてとのはら 
 +  にもてきたるとてあるみ侍れはこその 
 +  正月一日ありける三月十九日つくしのひせんの 
 +  国まつらのこほりにかへしまといふ所をはな 
 +  れておなし廿三日みむしうのふくゐ山を 
 +  みるそこに三日の風なくてあるにはしめて 
 +  ひつしのおほかるを見るおなし廿九日ゑ 
 +  しうのしらのそくにつくたよりの風なくして/s61l 
 + 
 +https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100002873/61?ln=ja 
 + 
 +  かの日をつめらる四月十三日かううの 
 +  ふかく天につく廿九日たいのかみんつい 
 +  山のきようかけ寺にうけきたる八人の 
 +  そうにさいすはしをもくんかへらる日本 
 +  のてうのめほくとす五月一日ふてそう給 
 +  はりて人々あれとここにはふみもなしつく 
 +  しにありときけとみえねはおほつかなさは 
 +  なくさかたもなしたたほいかなひて 
 +  心ゆき給へらんそさはかしこにおはしつき 
 +  て見給ふへきひとにこそとすこしことわら 
 +  るれと我身のおほつかなさたたけふかあす 
 +  かをまついのちなれはこのよのことんお/s62r 
 + 
 +  ほゆましいととはるかなるわかれなけん 
 +  身のほとあはれにそとしころも心にかけ 
 +  たるにしの方をうちなかめつついり日のおり 
 +  はおかむにともすれはくもりくものかくすに 
 +    そのかたとしたふいり日をたちかくす 
 +    よにうき雲のいとはしきかな 
 +  よろつにつけてみのみいとはしけれと心うか 
 +  りけるいのちなかさをそ思ひわひてはさは 
 +  有とならはあさりおはしてこのよにみえ 
 +  給かしそれこそは長いのちのかひならめ 
 +  とおもへと心地のよはり行さまはあるへく 
 +  もおほえはへらす 
 +    つきもせすおつるなみたはからくにの 
 +    とわたるふねにおりはへもせし/s62l 
 + 
 +https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100002873/62?ln=ja 
 + 
 +  のみひとりこちてめはきりつつすくすたうより/s63r 
 + 
 +https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100002873/63?ln=ja
  
text/jojin/s_jojin2-17.1488686235.txt.gz · 最終更新: by Satoshi Nakagawa