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text:isoho:ko_isoho1-12

伊曾保物語

上巻 第12 イソポ、リイヒヤに居所を造る事

校訂本文

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イソポ、リイヒヤに居所せしむ。その御赦免(しやめん)を報ぜんがために、一七日(いつしちにち)にこの書を集め奉る。御門、叡覧(えいらん)あつて、まことに不思議の思ひをなし給へり。「かかる才人、世にあるまじ」とて、あまたの禄(ろく)をくだされける。

イソポ、この賜物(たまもの)を船に積み、サンへ二度(ふたたび)下りにけり。サンの人々、このよしを聞きて、イソポを迎へんとて、楼船(ろうせん)を飾り、舞楽を奏し、海中の魚鱗(ぎよりん)も驚くばかりさざめきあへり。

さるほどに、イソポはほどなくサンにつきて、高き卑しき選ばず召し出だし、その身は高座に上(のぼ)り、「いかに人々聞き給へ。われ、この年月、この所にあつて、面々の御あはれみをかうむることかぎりなし。しかのみならず、人の譜代(ふだい)たりしものを、請(こ)ひ免されてけることに至るまで、この所の御恩にあらずといふことなし。しかるを、不慮の災禍(さいくわ)によつて、リイヒヤの国王より御調物(みつきもの)を免し給ふこと、これわが才智のなす所なり。これにあらずんば、いかでか御恩を報ずべけんや。これもひとへに天道の御恵みにてこそ候へ」と語りければ、その守護人を初めとして、喜びあへることかぎりなし。

それよりして、サンのことは申すに及ばず。あたり近き国里までも、いよいよイソポを尊(たつと)みあへりけり。

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翻刻

  十二   伊曾保りいひやに居所をつくる事
いそほりいひやに居所せしむその御赦免をほう
せんかために一七日にこのしよをあつめ奉る御門
ゑいらんあつて誠にふしきの思ひをなしたまへり
かかる才人世にあるましとてあまたのろくをくた
されけるいそほ此たまものを船につみさんへふた/1-20l

https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/20

たひ下にけりさむの人々此由をききて伊曾保をむ
かへんとて楼船をかさりふかくをそうし海中の
きよりんもおとろくはかりささめきあへり去程に
いそほはほとなくさんに付てたかきいやしきえら
はすめしいたし其身は高座にのほりいかに人々聞
給へわれこの年月此所にあつてめんめんの御
あはれみをかうむる事かきりなししかのみなら
す人のふたいたりし物をこいゆるされてける事
にいたるまてこの所の御をんにあらすと云事なし
しかるをふりよのさいくわによつてりいひやの国
王よりみつきものをゆるし給ふことこれわか才/1-21r
智のなす所なりこれにあらすんはいかてか御をん
をほうすへけんや是もひとへに天道の御めくみに
てこそ候へと語けれはその守護人をはしめとして
よろこひあへる事かきりなしそれよりしてさん
の事は申におよはすあたりちかき国里まても
いよいよいそほをたつとみあへりけり/1-21l

https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/21

text/isoho/ko_isoho1-12.txt · 最終更新: 2025/03/06 11:22 by Satoshi Nakagawa