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text:ima:s_ima036 [2014/12/27 02:34] – 作成 Satoshi Nakagawatext:ima:s_ima036 [2023/09/19 15:29] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 今物語 今物語
-====== 第36話 鎌倉武士入道して高野の蓮華谷に行ふありけり ======+====== 第36話 鎌倉武士入道して高野の蓮華谷に行ふありけり・・・ ======
  
 ===== 校訂本文 ===== ===== 校訂本文 =====
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 鎌倉武士、入道して高野の蓮華谷に行ふありけり。 鎌倉武士、入道して高野の蓮華谷に行ふありけり。
  
-この者が寝(ぬ)る所にて、夜な夜な女と物語をしける音のしければ、具したりける弟子ども、おほかた心得がたくて、便宜(びんぎ)のありけるに、ある弟子、この入道に尋ねたりければ、「さることあり。我が女の鎌倉にありしが、夜な夜なこれへ来るなり。それに何事も言ひ合はせ、また、故郷(ふるさと)のことのおぼつかなさも語り、世間のこともはからひなどしてあるなり」と言ひければ、弟子、言ふはかりなく不思議に思えて、不思議((底本「不思儀」))の余りに、空阿弥陀仏に、ありままに申しければ、空阿弥陀仏、うち案じて、「さることも覚えあり。この女、いたく恋しく思ふにより、魂などの通ふにこそ。この定ならば、臨終の妨げにもなりなむず。急ぎ祈るべきぞ」とて、祈られけり。+この者が寝(ぬ)る所にて、夜な夜な女と物語をしける音のしければ、具したりける弟子ども、おほかた心得がたくて、便宜(びんぎ)のありけるに、ある弟子、この入道に尋ねたりければ、「さることあり。我が女の鎌倉にありしが、夜な夜なこれへ来るなり。それに何事も言ひ合はせ、また、故郷(ふるさと)のことのおぼつかなさも語り、世間のこともはからひなどしてあるなり」と言ひければ、弟子、言ふはかりなく不思議に思えて、不思議((底本「不思儀」))の余りに、空阿弥陀仏((明遍))に、ありままに申しければ、空阿弥陀仏、うち案じて、「さることも覚えあり。この女、いたく恋しく思ふにより、魂などの通ふにこそ。この定ならば、臨終の妨げにもなりなむず。急ぎ祈るべきぞ」とて、祈られけり。
  
 ある時に、「念仏にて祈てみむ」とて、蓮華谷の聖、三四十人ばかり廻り居て、この入道を中に据ゑて、念仏を責め伏せて申したるに、入道も同じく申しけるが、空阿弥陀仏の秘蔵の本尊の、帳に入りたるがおはしましける、そのかたをつくづくとまもりて、恐ろしげに思ひて、わなわなと震ひければ、空阿弥陀仏、寄りて、「など、恐しげには思ひたるぞ」と問へば、「その御本尊の御前に、かの女房が詣で来て、我を世に恨めしげに見て候ふが、など候ふらん、あまりに恐しく」と((「と」は底本「み」。諸本により訂正))申しければ、その時、空阿弥陀仏、「門門不同八万四、為滅无明果業因、利剣即是弥陀号、一声称念罪皆除」と、高く誦せられたりければ、この女の顔の、中より二つに割れて、散るやうに見えて、失せにけり。 ある時に、「念仏にて祈てみむ」とて、蓮華谷の聖、三四十人ばかり廻り居て、この入道を中に据ゑて、念仏を責め伏せて申したるに、入道も同じく申しけるが、空阿弥陀仏の秘蔵の本尊の、帳に入りたるがおはしましける、そのかたをつくづくとまもりて、恐ろしげに思ひて、わなわなと震ひければ、空阿弥陀仏、寄りて、「など、恐しげには思ひたるぞ」と問へば、「その御本尊の御前に、かの女房が詣で来て、我を世に恨めしげに見て候ふが、など候ふらん、あまりに恐しく」と((「と」は底本「み」。諸本により訂正))申しければ、その時、空阿弥陀仏、「門門不同八万四、為滅无明果業因、利剣即是弥陀号、一声称念罪皆除」と、高く誦せられたりければ、この女の顔の、中より二つに割れて、散るやうに見えて、失せにけり。
text/ima/s_ima036.1419615254.txt.gz · 最終更新: 2014/12/27 02:34 by Satoshi Nakagawa