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text:chomonju:s_chomonju650

古今著聞集 草木第二十九

650 南殿の桜は村上の御時式部卿重明親王の家の桜匂ひことなりとて・・・

校訂本文

南殿の桜は、村上1)の御時、「式部卿重明親王の家の桜、匂ひことなり」とて移し植ゑられけるとぞ。

その後、度々の炎上に焼けにければ、またあらぬ木をぞ植ゑかへられける。代々の御門、この花を賞せさせ2)給ひて、花の宴を行なはる。

承久に右馬権頭頼茂朝臣3)討たれし時、また焼けにけり。やがて、造内裏ありしに、この桜の種、大監物源光行が家に移し植ゑたるよし聞こえて、召して植ゑられけるとぞ。

いづれの時の種にてかありけむ、おぼつかなし。その桜も、いくほどなくて焼けぬれば、今は跡だにもなし。口惜しきことなり。

翻刻

南殿の桜は村上の御時式部卿重明親王の家
のさくら匂ことなりとてうつしうへられけるとそ其後
度々の炎上にやけにけれは又あらぬ木をそうへ
かへられける代々の御門この花を賞をさせ給
て花の宴をおこなはる承久に右馬権頭頼茂朝
臣うたれしとき又やけにけりやかて造内裏ありし/s512l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/512

にこのさくらのたね大監物源光行か家にうつし
うへたるよしきこえてめしてうへられけるとそい
つれの時のたねにてかありけむおほつかなしその
桜もいく程なくてやけぬれはいまはあとたにも
なしくちおしき事也/s513r

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/513

1)
村上天皇
2)
「賞せさせ」は底本「賞をさせ」。諸本により訂正。
3)
源頼茂
text/chomonju/s_chomonju650.txt · 最終更新: 2020/12/31 18:38 by Satoshi Nakagawa