text:chomonju:s_chomonju558
古今著聞集 興言利口第二十五
558 嵯峨の釈迦堂に人あまた参りて通夜したりけるに・・・
校訂本文
嵯峨の釈迦堂1)に人あまた参りて通夜したりけるに、夜うち更けて僧のありけるが「経為題目仏為眼。(経には題目と為り、仏には眼となる)2)」といふ句を朗詠にしたりけり。心ばかりはすると思ひたりけり。
孝道朝臣3)、折節参りあひて聞きゐたりけるが、朗詠果てて、孝道、かの僧に向ひて、「おもしろう候ひつるものかな」と色代(しきたい)したりけるを、僧、心地よげに思ひて、ちとゐ直りて、「これは随分に孝道に習ひて候ひしなり」と言ひたりけり。
この句のこと、中御門右大臣(宗能)4)、知足院殿5)の御時、九十句を撰定6)の後、妙音院殿7)、また百二十句を撰じ加へさせ給ひける。かれこれ合はせて二百十句なり。その中にもかの句入らず。かたがたをかしき言ひやうなり。ただし、みなこれを詠じあひけり。
翻刻
嵯峨の釈迦堂に人あまたまいりて通夜したり けるに夜うちふけて僧のありけるか経為題目 仏為眼といふ句を朗詠にしたりけり心はかりはす ると思たりけり孝道朝臣おりふしまいりあひ てききゐたりけるか朗詠はてて孝道彼僧にむ かひておもしろう候つる物かなと色代したりける/s443r
を僧心地よけに思てちとゐなをりてこれは随 分に孝道にならひて候しなりといひたりけり 此句の事中御門右大臣(宗能)知足院殿御時九 十句を撰定ののち妙音院殿又百廿句を撰 しくはへさせ給ける彼是合二百十句也其中にも 彼句いらすかたかたをかしきいひやう也但皆是を詠 しあひけり/s443l
text/chomonju/s_chomonju558.txt · 最終更新: 2020/10/22 23:37 by Satoshi Nakagawa