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text:chomonju:s_chomonju136

古今著聞集 文学第五

136 中納言顕基卿は後一条院ときめかし給ひて・・・

校訂本文

中納言顕基卿1)は後一条院2)ときめかし給ひて、若くより官(つかさ)・位(くらゐ)につけてうらみなかりけり。御門におくれ奉りにければ、「忠臣は二君に仕へず」と言ひて天台楞厳院3)に登りて、頭(かしら)おろしてけり。

御門隠れ給ひける夜、火をともさざりければ4)、「いかに」と尋ぬるに、主殿司(とのもづかさ)、新主(後朱雀)5)の御事を勤むとて参らぬよし、申しけるに、出家の心も強くなりにけり。

この人、若く道心おはしまして、常のことぐさには、

 古墓何世人 古き墓何れの世の人ぞ

 不知姓与名 姓と名とを知らず

 化為路辺土 化して路辺の土と為り

 年々春草生 年々春の草生ず

翻刻

中納言顕基卿は後一条院ときめかし給てわかく
よりつかさくらゐにつけてうらみなかりけり御門にをく
れたてまつりにけれは忠臣は二君につかへすといひて天台
楞厳院にのほりてかしらおろしてけり御門かくれ給ける
夜火をとりささりけれはいかにとたつぬるに主殿司
新主(後朱雀)の御事をつとむとてまいらぬよし申けるに出
家の心もつよくなりにけりこの人わかく道心おはし
ましてつねのことくさには/s102l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/102

 古墓何世人 不知姓与名
 化為路辺土 年々春草生/s103r

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/103

1)
源顕基
2)
後一条天皇
3)
比叡山延暦寺横川の首楞厳三昧院
4)
「ともさざりければ」は底本「とりささりけれは」。諸本により訂正。
5)
後朱雀天皇
text/chomonju/s_chomonju136.txt · 最終更新: 2020/02/18 16:52 by Satoshi Nakagawa