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text:mumyosho:u_mumyosho045

無名抄

第45話 歌をいたくつくろへば必劣事

校訂本文

歌をいたくつくろへば必劣事

覚盛法師のいはく、「歌は、荒々しく、止めもあはぬやうなる、一つの姿なり。それをあまり細工(さいく)みて、とかくすれば、果てにはまれまれ物めかしかりつる所さへ失せて、何にてもなき小物(こもの)になるなり」と申し、「さも」と聞こゆ。

季経卿歌に

  年を経て返しもやらぬ小山田は種貸す人もあらじとぞ思ふ

この歌、艶なるかたこそ無けれど、一節(ひとふし)いひて、さる体の歌とみ給へしを、年経て後、彼の集の中に侍るを見れば、

  賤(しづ)の男(を)が返しもやらぬ小山田にさのみはいかが種を貸すべき

これは直されたりけるにや。いみじうけ劣りて思え侍るなり。よくよく心すべきことにこそ。

翻刻

哥ヲイタクツクロヘハ必劣事
覚盛法師の云哥はあらあらしくとめもあはぬやう
なるひとつのすかた也それをあまりさいくみて
とかくすれははてにはまれまれ物めかしかりつる
所さへうせてなににてもなきこものになるなりと/e38r
申しさもときこゆ
季経卿哥に
  としをへてかへしもやらぬおやまたは
  たねかす人もあらしとそおもふ
この哥ゑんなるかたこそなけれとひとふしいひて
さる体の哥とみ給へしをとしへてのち彼集の
なかに侍をみれは
  しつのをかかへしもやらぬをやまたに
  さのみはいかかたねをかすへき
これはなをされたりけるにやいみしうけをとり/e38l
ておほえ侍也よくよく心すへきことにこそ/e39r
text/mumyosho/u_mumyosho045.txt · 最終更新: 2014/09/25 01:07 by Satoshi Nakagawa