世継物語
今は昔、紀中納言といふ博士、大学の西の門より、月の明かかりける夜、出でて羅城門(らいせいもん)1)の橋の上に立ちて、北ざまを見れば、朱雀門の上の層(こし)に、直衣姿なる人、上の垂木近く丈はあるが、うそぶきずんじて廻るなん有ける。
昔人は、かかる物を見顕はかしける。
今は昔紀中納言と云はかせ大かくの西の門より月のあ かかりける夜いててらいせい門の橋の上にたちて北様 をみれはすさく門のうへのこしになをしすかたなる 人上のたるきちかくたけはあるかうそふきすんし てめくるなん有ける むかし人はかかる物をみあらは かしける/25ウ