世継物語
今は昔、桂の御子1)に、式部卿の宮2)給ひ3)ける時、その女君に候ひけるはゝ4)は、この男宮をいと目出度と思ひかけ奉りけるを、知り給はざりける。
蛍の飛歩くを、「かれ捕らへて来(こ)」と、この童(わらは)にのたまはせければ、捕らへて汗衫(かざみ)の袖に蛍を包みて御覧ぜさせ聞こえける。
包めども隠れぬ物は夏虫の身よりあまれる思ひなりけり
今は昔かつらの御こに式部卿の宮給ひける時其女君 に候けるははは此男宮をいと目出度と思ひかけ奉りけ るを知り給はさりける蛍の飛ありくをかれとらへてこと此わ らはにの給はせければとらへてかさみの袖に蛍をつつ みて御覧ぜさせ聞こえける つつめどもかくれぬ物は夏虫の身よりあまれる思ひ成けり/9ウ