大和物語
同じ内侍1)に在中将2)の住みける時、中将のもとに詠みてやりける。
あきはぎを色どる風の吹きぬれば人の心も疑はれけり
とありければ、返り事、
あきの色3)を色どる風の吹きぬれど心はかれじ草葉ならねば
となん言へりける。
かくて、住まずなりてのち、中将のもとより衣(きぬ)をなん、しにおこせたりける。それに、「洗ひなどする人なくて、いとわびしくなんある。なほ、必ずして給へ」となんありければ、内侍の、「御心もてあることにこそあなれ。
大幣(おほぬさ)になりぬる人のかなしきは寄る瀬ともなくしかぞなくなる
となん言ひやりける。中将、
ながるとも何とか見えん手に取りて引きけん人ぞ幣(ぬさ)と知るらん
となんいひける。
をなしないしにさい中将のすみける とき中将のもとによみてやりける あきはきをいろとるかせのふき ぬれはひとのこころもうたかはれけり とありけれはかへり事 あきのいろをいろとるかせのふき ぬれとこころはかれしくさ葉ならねは となんいへりけるかくてすますなり てのち中将のもとよりきぬをなん しにおこせたりけるそれにあらひ なとする人なくていとわひしくなん/d62r
あるなをかならすしてたまへとなん ありけれはないしの御心もてある ことにこそあなれ おほぬさになりぬる人のかなし きはよるせともなくしかそなくなる となんいひやりける中将 なかるともなにとかみえんてにと りてひきけん人そぬさとしるらん となんいひける/d62l