大和物語
亭子の御門1)、河尻におはしましにけり。遊女(うかれめ)に白(しろ)といふ者ありけり。
召しにつかはしたりければ、参りてさぶらふに、上達部・殿上人・皇子(みこ)たち、あまたさぶらひ給ひければ、下(しも)に遠くさぶらふに、「かう遥かにさぶらふよし、歌つかうまつれ」と仰せられければ、すなはち詠みて奉りける。
浜千鳥飛び行くかぎりありければ雲立つ山をあととこそ見れ
と詠みたりければ、いとかしこくめで給ひて、かづけものなと賜ふ。
命だに心にかなふものならば何か別れの悲しからまし
といふ歌も、この白が詠みたりける歌なり。
ていしのみかと河尻におはしましにけり うかれめにしろといふものありけりめし につかはしたりけれはまいりてさふらふに かんたちめてんしやう人みこたちあ またさふらひたまひけれはしもにとをく さふらふにかうはるかにさふらふよし哥/d32l
つかうまつれとおほせられけれはすなはち よみてたてまつりける はまちとりとひゆくかきりありけれは 雲たつやまをあととこそみれ とよみたりけれはいとかしこくめてたまひ てかつけものなとたまふ いのちたにこころにかなふものならは なにかわかれのかなしからまし といふうたもこのしろかよみたりけるうたなり/d33r