大和物語
忠文1)が陸奥国(みちのくに)の将軍になりて下りける時、それが息子なりける人を、監の命婦、忍びてあひかたらひけり。馬のはなむけに、目取りくくりの狩衣・打衣(うちぎぬ)・幣(ぬさ)などやりける。
かの得たる男、
宵々(よひよひ)に恋しさまさる狩衣(かりごろも)心づくしのものにざりける2)
と詠みたりければ、女めでて泣きけり。
参議修理大夫天慶三年十一月十九日右衛門督 同年五月十五日入洛征夷大将軍 忠文かみちのくにの将軍になりて くたりける時それかむすこなりけ るひとをけんの命婦しのひてあひかた/d34l
らひけりむまのはなむけにめとり くくりのかりきぬうちきぬぬさなと やりけるかのえたるおとこ みちのくのあたちのやまももろ ともにこゑはわかれのかなしからしを よひよひにこひしさまさるかり衣 こころつくしのものにさり(そ有イ)ける とよみたりけれは女めててなきけり/d35r