目次

大和物語

第56段 越前守兼盛兵衛の君といふ人に住みけるを年ごろ離れてまた行きけり・・・

校訂本文

越前守兼盛1)、兵衛の君といふ人に住みけるを、年ごろ離れて、また行(い)きけり。

さて、詠みける、

  夕されば道も見えねどふるさとはもと来(こ)し駒(こま)にまかせてぞ行く

女返事

  駒にこそまかせたりけれはかなくも心の来ると思ひけるかな

翻刻

駿河守従五位上後賜平姓兵部大輔従五位上蔦行王男
越前守かねもり兵衛のきみといふひとに
すみけるをとしころはなれてまたいき
けりさてよみける
  ゆふされはみちもみえねとふるさ
  とはもとこしこまにまかせてそゆく
  こまにこそまかせたりけれはかなく
女返事
  もこころのくるとおもひけるかな/d27r
1)
平兼盛