大和物語
越前守兼盛1)、兵衛の君といふ人に住みけるを、年ごろ離れて、また行(い)きけり。
さて、詠みける、
夕されば道も見えねどふるさとはもと来(こ)し駒(こま)にまかせてぞ行く
女返事
駒にこそまかせたりけれはかなくも心の来ると思ひけるかな
駿河守従五位上後賜平姓兵部大輔従五位上蔦行王男 越前守かねもり兵衛のきみといふひとに すみけるをとしころはなれてまたいき けりさてよみける ゆふされはみちもみえねとふるさ とはもとこしこまにまかせてそゆく こまにこそまかせたりけれはかなく 女返事 もこころのくるとおもひけるかな/d27r