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大和物語

第6段 朝忠の中将の人の妻にてありける人に忍びて会ひ渡りけるを・・・

校訂本文

朝忠の中将1)の、人の妻(め)にてありける人に、忍びて会ひ渡りけるを、女も思ひかはして住みけるほどに、かの男2)、人の国の守になりて下りければ、これもかれも、「いとあはれ」と思ひけり。

さて、詠みてやりたる。

  たぐへやるわが魂(たましひ)をいかにしてはかなき空にもて離るらん

となむ、下りける日、言ひやりける。

翻刻

あさたたの中将の人のめにてありける人に
しのひてあひわたりけるを女もおもひ
かはしてすみけるほとにかの男人のく/d8r
にのかみになりてくたりけれはこれもか
れもいとあはれとおもひけりさてよみて
やりたる
  たくえやる我たましひをいかにして
  はかなきそらにもてはなるらん
となむくたりける日いひやりける男/d8l
1)
藤原朝忠
2)
女の夫