徒然草
尹大納言光忠入道1)、追儺(ついな)の上卿(しやうけい)を勤められけるに、洞院右大臣殿2)に次第を申し請けられければ、「又五郎男を師とするより外の才覚候はじ」とぞのたまひける。かの又五郎は、老いたる衛士(ゑじ)の、よく公事(くじ)になれたる者にてぞありける。
近衛殿3)、着陣し給ひける時、軾(しき・ひざつき)を忘れて、外記を召されければ、火焚きて候ひけるが、「まづ、軾を召さるべくや候らん」と忍びやかにつぶやきける。いとをかしかりけり。
尹大納言光忠入道。追儺の上卿をつと められけるに。洞院右大臣殿に次第/w1-73l
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を申請られければ。又五郎男を師と するより外の才覚候はじとぞ。のたまひ ける。かの又五郎は老たる衛士の。よく 公事になれたる者にてぞ有ける。 近衛殿着陣し給ける時。軾をわすれ て外記をめされければ。火たきて候ける が。先軾をめさるべくや候らんとしのびや かにつぶやきける。いとおかしかりけり/w1-74r
http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0001/he10_00934_0001_p0074.jpg