徒然草
世の人の心まどはすこと、色欲にはしかず。
人の心はおろかなるものかな。匂ひなどは仮のものなるに、「しばらく衣裳に薫き物す」と知りながら、えならぬ匂ひには、必ず心どきめきするものなり。久米の仙人の、物洗ふ女の脛(はぎ)の白きを見て、通を失ひけんは1)、まことに、手・足・肌(はだへ)などの清らに、肥えあぶらづきたらんは、ほかの色ならねば、さもあらんかし。
世の人の心まどはす事色欲にはしかず。 人の心はおろかなる物かな。にほひなどは かりのものなるにしばらく衣裳に 薫物すとしりなから。えならぬにほひ には必こころどきめきする物也。久米の 仙人の物あらふ女のはぎの白きを見て。通を うしなひけんは。誠に手あしはだ へなどのきよらに。肥あぶらづきたらんは。/w1-7l
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外の色ならねばさもあらんかし/w1-8r
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