とはずがたり
世の中いとわづらはしきやうになり行くにつけても、「いつまで同じながめを」とのみあぢきなければ、「山のあなたの住まひのみ願はしけれども、心にまかせぬ」など思ふも、「なほ捨てがたきにこそ」と、我ながら身を恨み寝の夢にさへ、遠ざかり奉るべきことの見えつるも、「いかに1)違(ちが)へむと思ふもかひなくて、如月も半ばになれば、おほかたの花もやうやう気色づきて、梅が香(か)匂ふ風訪れたるも、飽かぬ心地して、いつよりも心細さも悲しさも、かこつ方なき。
世中いとわつらはしきやうになりゆくにつけてもいつまておなし なかめをとのみあちきなけれは山のあなたのすまゐのみねか はしけれとも心にまかせぬなとおもふもなをすてかたきにこそ と我なから身をうらみねのゆめにさへとをさかりたてまつるへき事の 見えつるもいにちかへむとおもふもかひなくてきさらきもなかはに なれはおほかたの花もやうやうけしきつきてむめかかにほふかせ をとつれたるもあかぬ心地していつよりもこころほそさもかなし さもかこつかたなき人めすをとのきこゆれはなにことにかと/s113l k3-1