醒睡笑 巻8 祝ひすました
元日いまだ夜深きうちに、よろづ物を売り買ふ人、えびすを求め迎ふることは、聖徳太子より定まれり。
さるにより、町々々々もちて、「若えびす、若えびす1)と呼ぶ。これを望む者、うけて喜ぶ者、えびすの版木を摺る者、いろいろ人の尊むほどの姿をおこして持ちたりしが2)、師走のいそがはしきにや取り紛れけん、えびすと思ひて持ち出でける三途川の姥(むば)を刷りたるを取り違へ3)売り歩(あり)きぬ。
明方に受くる者の見付け、「これは異(い)な姿や」と言ふを、売主(うりぬし)も見れば姥なり。肝を消しながら、おくれぬ顔して言ふやう、「これこそ、えびすのおふくろにて、ことさらにめでたう」と祝ひければ、「げにもげにも、若えひす殿も4)、おふくろがなうてはいかであらん。福の源(みなも)とこれなり」と喜びて、いただき納めけるとなん。
一 元日いまた夜ふかきうちによろつ物をうり かふ人えひすをもとめむかふる事は聖徳太 子よりさたまれりさるにより町々々々もちて 若えひちくとよふこれをのそむ者うけて よろこふものえひすのはんきをするものいろいろ 人のたうとむほとのすがたをおこしてもちた りしかしはすのいそがはしきにやとりまきれ けんえひすとおもひて持出ける三途川の/n8-62l
むはをすりたるをとりち人うりありきぬ明かた にうくるものの見付これはいなすかたやといふを うりぬしも見れはむばなりきもをけし なからをくれぬかほしていふやうこれこそえひすの おふくろにてことさらにめてたうといはひけれは けにもけにもわかゑひす殿しおふくろかなう てはいかであらん福のみなもとこれなりとよ ろこひていたたきおさめけるとなん/n8-63r