醒睡笑 巻8 秀句
旅人、敦賀(つるが)にて、「一夜の宿を貸し給へ」と言ふ。亭の答へに、「春か秋冬ならば易(やす)きことなり。夏月(かげつ)に泊まりごとはなるまい」。「いかなれば」と問ふ。「ここは処(ところ)を『つるが』とて、鶴ほどの蚊ありて食らふものを」。旅人言ふ、「それならば宿貸し給へ。毛頭苦しからず。生得(しやうろく)わが住むかた山家(やまが)なれば、山ほどの蚊に食はれつけた身ぢや」と。
一 旅人敦賀にて一夜の宿をかし給へといふ亭 のこたへに春歟秋冬ならは易事なり夏月 にとまり事はなるまい如何なれはととふ爰は 処をつるかとて靏程の蚊ありてくらふ物を 旅人いふそれならは宿かし給へ毛頭くるし からす生得我すむかた山かなれは山程の 蚊にくはれつけた身しやと/n8-51r