醒睡笑 巻6 恋のみち
京の町を、「気力の毒買はう、毒買はう」と言うて歩(あり)く男の姿を見れば、いかにも痩せ衰へ、色せうせうと労瘵気(らうさいげ)なり。をかしきものに思ひ、あるところへ「薬を売らん」と呼び入れ、「そなたの風情には、違うたる望みなり」と思ふ時、「さることあり。われらはそなたの御覧ずるにまぎれなし。それがし連れたる女どもの、気力あまりよく候ふまま、一服飲ませたうて尋ぬる」とぞ申しける。
一 京の町を気力の毒かはふ毒かはふといふてあり く男のすかたを見れはいかにもやせおとろへい ろせうせうと労瘵気なりおかしきものにおもひ ある処へ薬をうらんとよひ入そなたの風情には ちがふたる望なりと思ふ時さる事有我等は そなたの御覧するにまきれなしそれかしつ れたるをんなともの気力あまりよく候まま一ふ くのませたふてたつぬるとそ申ける/n6-31l