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醒睡笑 巻6 児の噂

27 児たまさかの里くだり・・・

校訂本文

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児(ちご)たまさかの里くだり

ころしも秋の半ばとて

民のかまどはにぎはへる

煙たつ田のもみをひき

米を白めてつき臼(うす)や

誰もしるこの餅の音

きねの神垣へだてなく

並みゐてこれを賞翫す

笑止は児の餅にむせ

目口をはだけ悶(もだ)ゆれば

父母(ぶも)は歎きに沈みつつ

せん方涙なりつるに

山伏かけで通り合ふ

頼みて祈念するほどに

栗ほど餅が喉よりも

ひよつと出づれば色直り

心安さに児の言ふ

「とても行者の奇特(きどく)ならば

祈り出だせしその餅を

ま一度祈り入れ給へ」。

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翻刻

一 児たまさかの里くだりころしも秋のなかばとて
  民のかまどはにきはへる煙たつ田のもみを
  ひき米をしろめてつきうすや誰もしる
  この餅のをときねの神垣へたてなくなみゐて是を
  賞翫す笑止は児の餅にむせ目口をはたけ悶
  ゆれば父母は歎に沈つつせんかた涙なりつる
  に山伏かけでとをりあふたのみて祈念/n6-14l
  するほとに栗ほと餅か喉よりもひよつといつ
  れはいろなをり 心安さに児のいふとても行
  者の奇特ならは いのり出せし其餅を
  ま一度いのり入給へ/n6-15r