醒睡笑 巻6 児の噂
ふと人の来たりて児(ちご)に向かひ、「法印はいづくにわたり候ふぞ」と尋ぬれば、「護摩堂にかきしてござるは」。「『かき』とは何事ぞ」。「経・陀羅尼を読みて、といふことよ」。「それをば『かんきん1)』とぞいふものなれ」。「あこもそれほどのことは知りたれど、ひもじさに、『かん』とも『きん』とも、はねられぬは2)」。
ひだるさと寒さと恋と比ぶれば恥かしながらひだるさぞます
一 ふと人の来りて児にむかひ法印はいづく にわたり候そと尋れは護摩堂にかきして/n6-10r
御座るはかきとは何事ぞ経陀羅尼をよみ てといふ事よそれをばかんきんとそいふ物なれ あこもそれほとのことはしりたれとひもしさにかん ともきんともはれらぬは ひたるさと寒さと恋とくらふれは はつかしなからひたるさそます/n6-10l