醒睡笑 巻5 婲心
越前守の〓1)に、高忠2)といひける侍の、夜昼まめなるが、冬なれど帷(かたびら)をなん着たりける。雪の降る日、「歌を詠め」とありければ、この侍、「何を題にてつかまつるべきぞ」と申せば、「裸(はだか)なるよしを詠め」と言ふに、
裸なるわが身にかかる白雪はうちふるへども消えせざりけり
と詠みければ、感じ給ひて、着たる衣を脱ぎて取らす。北の方もあはれがり、薄色の衣のかうばしきを取らせけり。
一 越前守の〓に高忠(たかたた)といひける侍の夜昼(よるひる) まめなるか冬なれと帷(かたひら)をなんきたりける 雪のふる日哥をよめとありけれは此侍何 を題にて仕(つかまつる)へきぞと申せははだかなるよしを よめといふに/n5-17r
はたかなる我身にかかる白雪は うちふるへともきえせさりけり とよみけれは感じ給ひてきたる衣をぬ きてとらす北の方もあはれかりうす色の 衣のかうばしきをとらせけり/n5-17l