醒睡笑 巻5 婲心
夫(おつと)の心にはかに変はり、妻(つま)に暇をやると言ふ。とかく言葉はなく、出でて去(い)なんとする時、あたりに馴れし女房、あまたとぶらひ来たり、「とてもかなはぬ仕合はせなれば、身に添へん物をも、などしたためられぬぞや」。「いな、殿ほど惜しき物の何かあらん。殿を置きて行くからは、何も身に添へんとは思はぬ」と語るを、ひそかに聞き、やるせなき心つき、長き別れまでに添ひしことよ。
一 夫(おつと)の心俄にかはり妻(つま)に隙をやるといふとかく ことばはなく出ていなんとする時あたりに なれしねうばうあまたとぶらひきたりとて もかなはぬ仕合なれば身にそへん物をもな としたためられぬそやいな殿(との)ほとおしき物の なにかあらん殿ををきてゆくからはなにも身/n5-5l
にそへんとはおもはぬとかたるをひそかに聞やる せなき心つきながき別迄にそひしことよ/n5-6r