醒睡笑 巻4 唯あり
ある庖丁人(はうちやうにん)の言ひけるは、「誰も常に山の薯蕷(いも)より、野老(ところ)は一倍おもしろいものと仰せある。われらはさやうに一向思はぬ。その子細は、野老と薯蕷とを調へて出だすに、苦き野老はいつも返ることあれど、悪う言はるる薯蕷のうまきが、残りて返りたるためしがない」。/n4-63l
一 ある庖丁(ほうてう)人のいひけるは誰もつねに山のいも よりところは一倍おもしろひ物とおほせ ある我らはさやうに一向おもはぬ其子細は野(と) 老(ころ)と薯蕷(いも)とを調(ととのへ)て出すににがきところ/n4-63r
はいつもかへる事あれとわるふいはるる薯 蕷のうまきが残りてかへりたるためしかない/n4-63l