醒睡笑 巻4 そでない合点
「手負ひには有馬の湯ほど薬はない」と、人みな言ふを聞きたる庖丁人(はうちやうにん)あり。さる所の振舞ひに、雁(がん)の汁をするとて雇ひければ、亭主にも問はず、客人の幾人(いくたり)あるにもかまはず、むざと切りたるぞ役に立たず。
亭、大きに腹立(ふくりふ)しければ、かの庖丁人、「その儀ならば、別の雁を切らしられよ。この切りたるは手負ひなり。有馬の湯に入るれば治る。大事ない」と。
一 手負には有馬の湯ほと薬はないと人みな いふをききたる庖丁(はうてう)人ありさる所のふる まひに雁(かん)の汁をするとてやとひけれは 亭主にもとはす客人のいくたりあるにも かまはすむさときりたるぞやくにたたす/n4-40l
亭大に腹立しけれは彼庖丁人 其儀ならは別(へつ)の雁(かん)をきらしられよ此き りたるは手負なりありまの湯にいるれはなをる 大事ないと/n4-41r