醒睡笑 巻4 そでない合点
能を見物せんとて、芝居銭(しばゐせん)十文つかはし、鼠戸(ねずみど)をば入りしかど、一円おもしろき心なかりしかば、退屈して外へたきよしを言ふ。番する者、口にて1)さらに許さず。
「さあらば、いかほどにても、銭をやらん」とわびたるに、百とりてぞ許しける。かの男、やうやう垣(かき)の外に出で、笠を脱ぎてから、世上をながめ、二つ三つ頭(あたま)を振りて、あげくに、「百ではでものぢや」と。
一 能を見物せんとて芝居銭(しはゐせん)十文つかはし 鼠戸(ねつみと)をは入しかと一円おもしろき心なかりし かは退屈(たいくつ)してそとへ出度よしをいふ番する者 口候はゝさらにゆるさすさあらはいかほとにても 銭をやらんとわひたるに百とりてそゆるし ける彼男やうやう垣(かき)のそとに出(いて)笠(かさ)をぬき てから世上をなかめふたつ三つあたまを ふりてあけくに百てはてものじやと/n4-38l