醒睡笑 巻1 鈍副子
筆者を頼み伊勢物語を写させけるに、「昔男」といふを仮名に「むし男」と書き、「か」の字を落したり。
主人見付け、「最初の三字の内をさへ落されたるや」と腹立(ふくりふ)する時、かの書き手いはく、「ひたもの書きゆかば、いかほども末にいや字1)の候はんを、足しにつかまつり候はん」と。
一 筆者(ひつしや)を頼(たの)み伊勢物語を写させけるに昔 男と云をかなにむし男とかきかの字を落 したり主人見付最初の三字の内をさへ/n1-59l
おとされたるやと腹立する時彼かきて云ひた 物書ゆかば如何程も末にいや字の候はん をたしに仕候はんと/n1-60r