醒睡笑 巻1 鈍副子
京にて口脇(くちわき)白き男、「ちと出家をなぶり、理屈につめて遊びたや」と思ひつつ、さかしき人に向ひ問ふ。「やすきことなり。教へむ。なんぢ沙門(しやもん)にあうた時、『お僧はいづくへ』と言ふべし。さだめて、『風にまかせて』と言はれんずる。その時、『風なき時はいかん』と言へ。やがて閉口すべし。
この教へを得、ある朝、東寺の門前にて出家に行きあふ。『お僧はいづくへ』と問ふ。僧の返事に、「立ち売りの勘介が所へ斎に行く。何ぞ用ありや」。男、とつてにはぐれ、「あら、お僧は風にはおまかせないの」と。
一 京にてくちわきしろき男ちと出家をなぶり りくつにつめてあそひたやとおもひつつさかし き人にむかひとふやすき事なりをしへむ なむち沙門(しやもん)にあふた時お僧はいづくへといふへ しさためて風にまかせてといはれんする其時風 なき時はいかんといへやかて閉口(へいこう)すへし此をしへを 得ある朝東寺の門前にて出家に行あふお 僧はいつくへととふ僧の返事にたちうりの/n1-57l
勘介か所へ斎に行なにそ用ありや男とつ てにはくれあらお僧は風にはおまかせないのと/n1-58r