無名抄
関明神
逢坂の関の明神と申すは、昔の蝉丸(せみまろ)なり。かの藁屋の跡を失なはずして、そこに神となりて住み給ふなるべし。
今もうち過ぐるに、たよりに見れば、昔、深草の御門1)の御使にて、和琴習ひに良峯宗貞(よしみねのむねさだ)2)、良少将とて、通はれけむほどの事まで面影に浮かびて、いみじくこそ侍れ。
関明神 あふさかのせきの明神と申はむかしのせみまろ也 かのわらやのあとをうしなはすしてそこに神と/e23l
なりてすみ給なるへし今もうちすくるにたよ りにみれはむかしふかくさの御門の御使にて 和琴ならひによしみねのむねさた良少将とて かよはれけむほとのことまておもかけにうかひて いみしくこそ侍れ/e24r