蒙求和歌
司馬称好
後漢の司馬徽、字(あざな)は徳操、穎川の人なり。
口に人の短を言はず、人と物語するに、好悪・吉凶を問はず、すべて人の言ふことをば、ことごとく、「好(よ)し」とのみ称しけり。
郷人来て、「我が子の死にたる」と云ひあはすれば、「おほきに好し」と答へけり。妻、このことを聞きて、「なんぢが有徳のゆゑに、人来たりて、良きことも、悪しきことも、言ひあはするに、子死にたり。返り事にさへ、『好し』と答ふること、心無きに似たり」と、いさむれば、「なんぢが言ふこと、また、おほきに好し」と答へけり。
とふ人も言葉も千々(ちぢ)にかはれども答ふる道ぞ一つなりけり
司馬称好 後漢ノ司馬徽アサナハ徳操穎川ノ人ナリ/口ニ人ノ短ヲイハス人トモノカタリスルニ好悪 吉凶ヲトハススヘテ人ノ云コトヲハコトコトクヨシトノミ称シケリ郷 人来テ我子ノシニタルトイヒアハスレハヲホキニヨシトコタエケリ妻 コノコトヲキキテナンチカ有徳ノユエニ人キタリテヨキコトモアシキ コトモイヒアハスルニ子(コ)シニタリカヘリコトニサヘヨシトコタフルコト ココロナキニニタリトイサムレハナムチカイフコトマタヲホキニヨシト コタエケリ トフ人モコトハモチチニカハレトモコタフルミチソヒトツナリケリ/d2-39l